「人間のタブーを描く意欲作」ハイ・ライフ Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
人間のタブーを描く意欲作
相変わらずのミア・ゴスの脱ぎっぷりの良いことはさておき、実力派の役者が揃った本作は、宇宙船が舞台となる物語である。主人公モンテと赤ん坊が冒頭で登場するのだが、他のクルーは死亡したというのが見て取れる。そこを遡って追っていく、時系列順では無い物語なのだが、映像で描かれている部分しか分からず、スカッとしたいスペースSFを期待するとガッカリするかも知れない。閉鎖的な空間で描かれる、人間のタブーを炙り出す作品の為、宇宙船の緊急事態で、対立していた人物が手を組んで危機を乗り切るだとか、いかにもな"アメリカ映画"と言うストーリーではないという事を念頭に置いて鑑賞すべき作品である。クルーは全員「囚人」であり、極刑に処する罪を犯した人間が集められている。同乗する医師も勿論犯罪者という形だ。
本作ではそれぞれの人物の葛藤や孤独を描いている為、宇宙での未知の体験や恐怖とはまた違う、"人"という物が織りなす欲望や恐怖、精神を巣食う病魔的な悪夢を描いているのである。
表向きには「ブラックホールから"ペンローズ過程"の実現」という、クリストファー・ノーランの「インターステラー」的なミッションがあるのだが、簡単に言うとブラックホールという強力な威力を持つ天体からエネルギーを取り出すという実験である。そもそも夢物語なその実験とは裏腹に、メインは「人間の性・繁殖」についての実験なのだ。男女合わせて9人なのだが、その中で自由恋愛による肉体接触、つまり性交渉は禁止され、男性は精子を搾取され、女性は妊娠を強制的にさせられるというタブーだらけの宇宙船であるのだ。人間を実験動物のように扱う、存在も目的もイカれている宇宙船内では、何年も続くそんな生活に耐えきれなくなったのか、レイプや殺人が起こるようになっていく。一応性欲抑制の為なのか、"自慰部屋"たるものがあり、男女双方が利用できるシステムもあるのだが、1部屋しかないという事は誰かが楽しんだ後のそれを使わなきゃいけないって…衛生的にヤバいのでは…?なんて事を考える余裕もないままおかしくなっていく。医師は自慰部屋と研究に没頭しており、登場人物全てにおいて共感や共有という物が一切生まれない、救いようの無い展開となる。
どこか無機質に思える描写を静かな語り口調で進んでいくイメージの為、物足りなく感じる人も一定数居そうだが、何もかもがタブーだらけの世界に足を踏み込めるかどうかで鑑賞者の感想もバラバラだろう。
