「笑いに乗せた人生謳歌」英雄は嘘がお好き しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
笑いに乗せた人生謳歌
来た来た、これぞフレンチコメディ!
男は女に滅法弱く、格好つけながらも情けない。女は気高く欲張りで逞しい。何よりもまずは色恋、たっぷりのエスプリと軽妙な会話、どんな時にも洒落を忘れず、人生への温かく愛情に満ちた眼差し。
このテイスト、大好きだ。
倫理的なツッコミは野暮だろう。登場人物は皆どこかしら弱く欠点だらけ、しかし人間味溢れて憎めない。ドタバタの展開をオロオロと右往左往し、駄目駄目のまま、結局なんとなく鞘に収まってハッピーな雰囲気…。
あーあー、と苦笑しながら、何故かほっと肩の力が抜けるような気がするから不思議だ。最後まで往生際悪く逃げ回るヌヴィル。あかんコイツ絶対更正しないよな…と嘆息しつつ、全く実の無い結末なのに、何だかとても安心してしまった。
英雄にも、才色兼備にも、聖人君子にもなれないけれど、ちょっとばかり頑張ったりする事もあるよ。そんな感じで生きてけりゃ上等じゃない?ニヤリとセクシーで温かい笑みと共に、バンパンッと背中を叩いて貰ったような。
役者陣の嵌まり具合が素晴らしい。特に主役の二人。コミカルに軽快に、外連味たっぷりなのに嫌みのない、絶妙なバランスの演技を見せている。
ジャン・デュジャルダンの、いかにもフランス紳士な風貌。ちょいポッチャリめなオジサン体型なのにキメればセクシーで格好良く、情けない時はとことん情けない。ヘコむ姿もちょっと可愛い。
賢く行動力に長け、男相手でも一歩も引かないメラニー・ロラン。辛辣だがそこここに見える思いやりの深さ、自立心の強さと機転に富んだ立ち回りが魅力的だ。ヌヴィルの悪びれない嘘八百に、はあぁ!?と呆れ返る表情が絶品だった。
伏線や予定調和が予測した所にピタッと作用してくる構成もいい。戯曲的な話の場合、奇をてらうより、お約束が決まる方が気持ちいい場合もある。嘘から出たまこと。OPとEDのなぞらえ。
普段割と長い映画でも苦にならず見るので、90分という尺は短いようにも思ったけれど、コメディ映画はこの位でテンポ良く、飽きたり粗が気になったりし始める前にサクッと終わるのが丁度良いのかも知れない。
エリザベットとヌヴィルの関係は果たして恋かな?不誠実さも狡さも弱さも知りながら、しょうがねーなー、悪いヤツじゃないし助けてやんなきゃ、の女。繕わない自分を正面から受け止め、時に叱り飛ばしてくれる得難い相手を失いたくない男。
パートナー5割、母性3割、ときめき2割位の関係?(笑)
まあそんなんもいいんじゃない?。くっつき離れ、逃げ立ち向かい、泣き笑いながら、弱く強く、人間らしく。
ちょっぴり気持ちと足取りを軽くしてくれる、上質のコメディ作品だった。