「自然と人間の在り方に挑む恋物語」天気の子 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
自然と人間の在り方に挑む恋物語
これほど、素晴らしい作品に出逢えるとは思わなかった。新海監督が絶頂期を迎えたことを確信できる傑作である。本作は、10代の若者達のラブストーリーを通して、『風の谷のナウシカ』を始めとして、数々の作品が描いてきた“自然と人間”という壮大なテーマに挑んだ意欲作である。
家出した高校生・帆高は、東京で何とか就職先を見つけて暮らしていた。ある日、彼は、少女・陽菜と出逢う。彼女は、祈るだけで晴天を創り出せる不思議な能力を持っていた。折しも東京は、何日も雨が降り続くという異常気象下にあり、二人は、陽菜の能力を活かした仕事を始め、晴天を希望する人々の願いを叶えていく。やがて二人は、陽菜に過酷な運命が待ち受けていることを知る・・・。
陽菜の持つ能力設定から考えれば、本作は、ラブファンタジーと言えるが、現実離れした物語になっていない。普通人である帆高を中心にしてストーリーが展開していることと、緻密で繊細な作画技術によって、写実的でリアルなラブストーリーに仕上がっている。
陽菜の能力は、自然に抗うことができる強力なものである。人々が彼女の創り出す束の間の晴天に歓喜する姿を活写していたので、更に陽菜が能力アップして、異常気象に立向っていくというベタな展開を予想していたが、そういう自然に挑む人間を描いた作品ではなかった。
二人は過酷な運命に翻弄されながらも、決断をする。決断が奇異に感じられないのは、終盤、自然との向き合い方を示唆する老婆の“昔は・・・”という台詞に説得力があるからである。更に、我々人間が、昨今の異常気象という自然の猛威に抗えないことを実感しているからである。
ラストシーン。二人は強く次に踏み出していく。何も変わらなくても構わない。互いを想う気持ち、愛する力が強ければ、それでいい。自然と人間という壮大なテーマに対して二人が導き出した揺るぎない答えが心に深く刻み込まれた。決して消えることはないだろう。