「新海誠流、叛逆の映画」天気の子 tさんの映画レビュー(感想・評価)
新海誠流、叛逆の映画
映画の序盤、人々の希望、この世界、笑顔、これらはみんな素晴らしいものであると、これでもか!と、超綺麗な作画で描いておきながら・・・
本作では、これらを全部ひっくり返す。
「一人の女のためなら、こんな世界など壊しちまってもいいんだよ!」という結論となり、最終的にぶっ壊す。
この展開にはしびれた。本当にお見事な叛逆の映画だ!
本作では、「君の名は」とは違って、社会システムからこぼれ落ちてしまった人たちの物語。システムを頼れないが故に、仲間同士で助け合い、懸命に生き抜こうとする。
がしかし、システムに依存している人間たちは、そのシステムを維持するために、こぼれ落ちてしまった人間たちをシステムに当てはめようと、迫害する。
穂高と陽菜が救おうとしていたのは、システムに依存していたこの人たちだぜ?にも関わらず、彼らから迫害を受けるって酷くね?そもそもこのシステムがクソなんであって、こんなもの救う価値なくね?その通りだよ!穂高、陽菜よ、こんなシステムぶっ壊しちまえ!
その通り。この映画は万引き家族なんすよ。
映画の終わりに、おばあちゃんが「世界が壊れたのではなくて、元に戻っただけだよ」と言う。この言葉は、今の時代に生きる我々にとってとても意味のある言葉である。
いま世界で、民主主義が危機的状況にある。社会の形が大きく変わろうとしている。でも実は、「変わる」とはいいつつも、民主主義が生まれる前の、元の状態に戻ろうとしているに過ぎない。
ですから中流階級の皆さん。なにも悲観することはないのです。安心して下流に落ちて下さい。下流に落ちたら、この映画の穂高と陽菜たちのように、仲間同士助け合い力強く生きていきましょう。中流のマインドで、自分だけが助かろうなんていうことは、決して思わないように。
理念のない人達の集団。それが日本。だから同じ過ちを繰り返す。昔、山本七平が分析した通りだよね。