「須賀さんについて」天気の子 hukazawaHQさんの映画レビュー(感想・評価)
須賀さんについて
ネタバレを書きなぐるために利用させていただきます。
須賀さんの行動に納得がいかないという意見をよく見るので、自分なりにいろいろこねくり回したところを書かせてていただきます。個人的な意見なので、そんな見方もあるんだ程度にどうぞ。
*須賀圭介について
帆高を気にかけて家出少年と知りながら雇う。家出で上京し、その後知り合った奥さんと結婚。会社の名前は自分と奥さんの名前(明日香)からだろう。
リアリストだがオカルト系の雑誌に記事を提供している。
娘が生まれ、会社の事務所に背比べの線があることから自宅としても使っていたと推測される。
事故で奥さんを失うが、事務所の冷蔵庫に奥さんのものと思われるメモがいまだに張り付けてあるあたり心の整理はついていないのだろう。娘は母方の義母に引き取られ、なかなかあわせてもらえないが引き取りの手続きは進めている。
劇中、未成年者誘拐の嫌疑を恐れ(子供の引き取りに影響を及ぼす可能性が高いからだろう)、帆高を追い出す。その際、大人になれと声をかける。
帆高が警察署から逃げ出し、刑事が事務所を訪れた際、帆高が陽菜を探すために逃げ出したと聞いて無意識に涙を流す。妻が亡くなった事故はぐうの音も出ない現実をリアリストの須賀に突きつけたが、それでも未だ割り切れていない須賀には帆高の気持ちが痛いほどわかったに違いない。リアリストであるが故に、一度しか体験していない陽菜の100%晴れ女は偶然だと思っているだろうが、帆高から聞いた廃ビルの屋上に帆高が行くであろう事は想像がつく。
そして帆高が銃を持っているかもしれないという情報はおそらくここで聞いたのではないか。もし、精神の安定を崩している帆高が警察を撃ってしまったら。警察が自衛の為帆高を撃ったら。取り返しのつかないことになる。それだけはさせないと、この時須賀は『大事なことの順番を入れ替えた』のだ。
廃ビルについた警察は、『被疑者の車』と発言している。もしかしたら家出をかくまった事はもうばれてる訳だから行動に移したとも考えられるが、動かなければ傷は浅くてすむのに行動した事に変わりはない。
廃ビルにて、須賀は帆高をなだめ、一緒に自首しようと提案する。リアリストの須賀にとっては、それが一番丸く収まる流れだった。廃ビルに来てしまったのだから、屋上に陽菜がいるならもう確保も同然だという判断だろう。拳銃を持っているかもしれない帆高を保護したかったし、わざわざ危険な壊れた非常階段を警察に追われながら登る必要もない。
しかし、帆高は晴れ女を信じている。祈りとともに鳥居をくぐる事が陽菜を救う唯一の手段だと確信し、屋上に向かう為に須賀に噛みつく。予想しなかった抵抗にあって須賀は帆高を反射的に蹴り飛ばすが、その先に捨てた拳銃がたまたま転がっていた。
拳銃を向ける帆高は天井に向かって銃を撃つ。到着した警察は銃を帆高に向けるが、予想した中で最悪の展開に須賀はなんとか双方をなだめようとする。帆高は拳銃を捨て、屋上に走る。
拳銃を捨てた時点で、須賀の目的は果たされたのだ。その帆高を高井刑事が抑え込み、手錠をかける。それでももがく帆高に、おそらく理屈ではない何かに突き動かされて須賀は体当たりをする。
帆高が取り返しのつかない状況になる事は、拳銃を捨てた事で防げた。そこで大人の感情が揺らいだのだろう。もともと昔の自分を重ねて見ていた須賀はそこで帆高を屋上に行かせるという行動に出てしまったのだろう。拳銃を捨てたのだから、それくらいやらせてやってもいいだろう、と思ったのかもしれない。
いきなり帆高の手助けをしたところに唐突さを感じるかもしれないが、何度も言うように大人としての須賀の目的はすでに果たされたのだ。帆高を屋上に送るのは、できることがあるのならさせてやりたい、自分も奥さんが救えるなら何でもしたかった、というセンチメンタリズムからではないだろうか。
そこで帆高は鳥居をくぐり、超常的な経験をして陽菜を取り戻す訳だが、現象を外から見ると屋上にいた行方不明の女の子の所に男の子がたどり着いた、というただそれだけの話である。
結果帆高も須賀も夏美も逮捕され、正式な手順を踏んで罰を受ける。陽菜と凪がその後一緒に暮らせたかは物語の中では語られず、帆高は保護観察着きで実家の島に送り返される。
逮捕された結果か、須賀は三年後も子供と一緒に暮らせていないようだし、夏美もすぐに就職できたかは怪しい。おまけに思い出の一杯あったであろう事務所は水没している。
そう、関係者全員思い通りになっていないのだ。天気の子という超常現象抜きに本作を見ると、誰一人うまくいかない話なのである。
しかし、視聴者は知っている。帆高は選択をし、勝ち取ったと。自分の身と引き換えに東京が沈むことを防ぐ事が可能だった少女は、自分の為に帆高の手を取ったと。
もし、あの場所に須賀が行かなかったら。噛みついたのが須賀ではなく高井刑事だったら。最悪の展開を防いだのは、やはり須賀であるし、須賀が行動しなかったら陽菜も戻ってくることは無かった(かわりに東京が水没する事も無かった訳だが)。賛否の別れる作品であることは想像に難くない。だけど、須賀さんに関しては、こんな感じに見たら納得できるんじゃないかな、と思う。
長々と語りましたが、須賀さんに感情移入したおっさんは本作に大変満足しているという事です。