「心は曇り空」天気の子 さとしさんの映画レビュー(感想・評価)
心は曇り空
君の名は。に続く作品としてどう新海誠ワールドが描かれるのか、非常に楽しみにしていました。
まず特筆すべきは、新海誠作品のお家芸である非常に写実的な絵作り。公開2週間前に完成というギリギリな制作スケジュールの中、一つ一つのシーンを直前まで監督が拘り抜いた結果なのでしょう、映像クオリティは流石の一言。幻想的な雨や水の表現、リアルな新宿の街並みなどはまさに眼福。
また、監督のファンサービスなのでしょう、前作の主人公たちがカメオ出演した時は劇場内に響めきが。
画面の美麗さが隅々まで楽しめる、これまで同様ハイクオリティな映像が見られるのでそこはご安心ください。
肝心のお話はというと、かなり若い人向けに作られたなという印象。
「世界と好きな人を選ぶとしたら、どちらか」選択されたのは後者でした。
お話の構造はよくあるボーイミーツガール。出会いから徐々に中が深まる様子は、前作の様にRADWIMPSの楽曲に乗せたPV風の演出で描かくが、イマイチ曲とシンクロしていない印象。
また、主人公に感情移入し辛く(若さゆえか)家出の理由や家出後の行動はあまり褒められたものではなく、それを取り巻く大人たちも主人公に寛大過ぎないか?と首を傾げるシーンも多々。
SF的な設定も"君の名は。"ほど練られておらず、なぜヒロインが巫女にならなくてはならなかったのか、そもそもなぜビルの上に鳥居があるのか、、"君の名は。"のような地域に根付いた信仰や歴史を紐解く流れが今作にはないため、巫女の設定が非常に薄味で物語の深みが感じられなかった。
極め付けはラストシーン。なんとかヒロインを取り戻した主人公は、残念ながら実家送りにされて離れ離れに。3年の月日を経てようやくヒロインと再会を果たすのだが、これが全くカタルシスがない!
なぜか?それは空白の3年間についてお互いがお互いのことを思う、会いたくても会えないもどかしさを演出する描写が無いからだ。"秒速5センチメートル"や"君の名は。"は、再会できるのかできないのか、瀬戸際の演出が素晴らしく、結果がどう転ぼうかとカタルシスを感じることができた。
今作では最後にヒロインを救えたことは主人公は知っていて、また会えない理由が保護観察下の元というお粗末な顛末なため、結局時が経てば2人はまた再会できるのだろうという御都合主義が予想できてしまった時点で映画の楽しみは損なわれてしまったのが残念だった。
つらつらと良くない点も書いてしまったが、若い人に向けて直球ストレート勝負を仕掛けてきた、新海誠監督の新境地開拓に最大限の敬意と拍手を。
願わくば、君の名は。の衝撃を次回作でもう一度。