「主人公がでてこない映画」屍人荘の殺人 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
主人公がでてこない映画
映画としては、設定に追い込む=紫湛荘にあつまる、までがおもしろい。
原作は知らないが、推理小説なら、たぶん箱にはいってからが、正念場になる、のだろう。
ところが、映画はもっとも魅力を感じるキャラクターだった明智さんが、早々に退いてしまう。ことと同時に密室がはじまる。そこからは、ありきたりな人狼ゲームみたいな感じの集団に低落する。
映画の導入は、ほんとに良かった。
まずキャラクタライズがあった。変わった人物像がある──ということだ。物語にキャラクタライズがあるのはとうぜんだが、日本映画には、変わった人物像がいないので、キャラクタライズがある、だけでポイントだった。
また、やりすぎていなかった。類型ならば明智さんはもっとナルシストで、葉村はもっとおどおどしているはずである。剣崎も類型におちいるのを抑制していた。と思う。
さらに、映画にきどりがない。映画にきどりがないのはとうぜんだが、日本映画はたいていきどっているので、きどってない、だけでポイントだった。
原作を知らず、予備知識もなかったので、明智さんが主人公だとばかり信じており、いったん捕まってから、なんらかの仕掛けで、再登場するものとばかり、思っていた。
というのも、明智さんは、ものすごく、丹精なキャラクタライズがなされていた。つまり、ビジュアルとゼスチュアとセリフに、まるで漫画かアニメのキャラクターのような細部があった。ように思う。
かんぜんに主人公だと信じていた。いなくなったのがひじょうに残念だった。
ゾンビとの白兵は、すぐれたゾンビ映画とくらべると、くらべようがないほど、さえない。けっきょく、さいしょの20分ほどが、おもしろいだけの映画で、どんどんまどろっこしく低迷していった。