「あれ?彼、本当に俳優なの?!」ザ・ライダー pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5あれ?彼、本当に俳優なの?!

2021年4月13日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

難しい

幸せ

と、暴れ馬の調教シーンで、共に観ていた息子が口にした。
乗馬ライセンスを持つ彼だが「働けば、馬に乗せてあげる」という倶楽部の言葉を聞いて一所懸命手伝いに通ったもののほとんど馬には乗せて貰えず、タダ働きで馬の世話能力ばかりが上達した悲しい経験がある。
予備情報を一切与えず鑑賞したかったので「エンドロールで答えはわかるらしいよ」と答えたが、見事過ぎる調教技術に「演技で出来る事じゃない」と確信を抱いたそうだ。

信頼するPROレビュアー、村山章さんのお勧めに従い、ノマドランド視聴前に本作を観た。
「人はなんの為に生きるのか」
「人は何故、夢を追いかけるのか」
有史以来、何度となく繰り返されてきたであろう問いへの、この映画も一つの答え方だと思う。

これ以上無いほどの率直さと真実味でもって、ジャオ監督は夢を絶たれた若者の苦悩と葛藤と再起、それを取り巻く家族の無償の愛、友人達の優しさを描いていく。

「夢が見つからない者」は多い。
「夢、或いは、何か、を探し求めて時の流れを彷徨う者」は非常に多い。
「夢を見つけた者」「自分が何者であるかを定めた者」は幸いだ。
だが、ひとたび、それを喪失するとなったらそれは生命そのものの喪失にも等しい・・・。
そして、そんな人間の複雑に入り組んだ想いをよそに、悠久の大自然は、変わらずそこに佇んでいる・・・。

細長い島国育ちの日本人には、どれだけ考えても想像の域を出ないが、大陸において、大都会の東海岸側から、西へ西へと荒野を旅する、或いは開拓を続けるというのはどれだけ過酷な事だろう。(西遊記しかり、だ)
まるで西部劇世界の子孫そのもののようなブレイディ達の素朴な暮らしは、余計なものが少ないからこそ「自分自身の在り方」というテーマを浮き彫りにし、物質文明の恩恵に溺れかけている観客にも同じテーマを思い出させてくれる。

言葉は要らない。論理的で緻密な構成ではあるが、この作品は「詩」だ。
バラではなくて、その香り。
空ではなくて、その光。
海ではなくて、その響き。
と言ったのは、エリナー・ファージョンだが、本作も、西部の大地に生きる人々の姿が、言葉よりも豊かに感情を揺さぶり、光や轟きのようなメッセージを残していく・・・。

役者ではない、カウボーイ村に住むごく普通の人達の信頼を勝ち得て出演させてしまうジャオ監督、そしてサウスダコタの雄大な景色も人々の何気ない表情や動きからもエモーショナルな画面を創り上げるリチャーズ撮影監督。公私共にパートナーである2人のタッグあればこそ成せた、白眉の仕事かと思う。

※余談だが、アンティークのピザヒーターに、ちょっと心惹かれた(笑)
どこかで入手可能かなぁ?

pipi
masamiさんのコメント
2021年4月16日

pi pi様 NOBUさんがおっしゃっているようにハイレベルです。
恥ずかしいですよ。知ったような事を言ってすみません。
勉強させてもらってありがとうございます😊

masami
NOBUさんのコメント
2021年4月13日

今晩は
 お世辞でもなんでもなく、凄いレビューですね。参りました・・。
 恥ずかしながら、”エリナー・ファージョン”と言う英国児童文学作家(調べました・・、一作も読んでいませんでした・・。私は、まだまだだなあ・・。)を初めて知りました。
 現在、このサイトで、幾つかの問題が起きているようですが、pipiさんのような、ハイレベルのレビューを書かれる方が多数いらっしゃるこのサイトは、映画好きが様々な貴重な情報を得る場であると再認識しました。
 有難うございました。

NOBU