劇場公開日 2019年3月8日

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「ロウソクは、消える直前に最も明るく燃える」運び屋 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 ロウソクは、消える直前に最も明るく燃える

2025年7月26日
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鑑賞方法:VOD

きみも後期高齢者になれば分かるだろう
・・監督はそう言ってくれているように思った。

「闇バイト」が巷では大はやりだけれど、
労働は面倒くさくてお金だけが手っ取り早く欲しい彼ら。
そんな《若者たち》だけでなく、いまや生活困窮者の《中年》や、
そして生に迷う《老人》たちも捕まっている。

老人は生きるための理由が欲しいのだ。
それがどのような頼まれごとであっても、自分が必要とされることが例えようもなく嬉しい。
忘れ去られることは辛い。
だから声を掛けられると舞い上がる。

だから《老人》は薄々詐欺だろうと感じていても誰かの役に立ちたくて、また役に立つ自分でいたくて 、自らオレオレ詐欺の仲間として立候補し、そして生きることの躍動に悦びの涙を流すのだ。

・・・・・・・・・・・・・

「運び屋」、
原題 The Mule =“薬”を運ぶ驢馬のこと。
運送業ですね。#mee too now
花卉栽培農家ですね 。#mee too ago

本作は、90歳で闇バイトに堕ちていった老人の姿を、僕たちに哀しく見せてくれる社会派映画だった。

「グラントリノ」以来、クリント・イーストウッドは、自らの老いと、枯れてゆく肉体に、自身、抑えようもない興味と魅力を感じているに違いない。
つまり、「今のこの自分にしか表現出来ないその世界を」彼は自分の老いた姿をまな板に乗せて演出している。
老境に至ってこそ、演じて、遺して、
そして伝えておかなければならないものを、監督が我々に見せてくれるのだ。

うまく愛してやれなかった。そして上手に一緒に暮らしてあげられなかった妻と子供たちに、
死ぬ前に何とか償いを果たしたい男アールの、最期の償いと足掻きだ。
イーストウッドの老年期の作品群は、実にそこにテーマが集中している。

「あなたはいつも外にいたわ」。
「あなたは遅咲きの花」。
「でも帰ってきてくれて嬉しい」。
これがアールの妻の最期の言葉だ。

・・

けれど、
僕はもうひとつのクリント・イーストウッドの横顔も観察する。
【へそ曲がりな彼の本当の姿】だ。
画面を観ていると、アールは涙涙の帰宅を果たしてようやく家庭人に戻った・・という100%の感じでもない。そこがとっても面白い部分だと思う。

仕事一途の男や運送業の男は、
妻子とは、昔も噛み合わないし、今でもそのまま噛み合わない。ずっとすれ違ったままなのだ。
(僕もそれで家庭をダメにしたからイタいけれど・・)、
運送業の映画も、老人の映画も、どれもちょっと哀れなものだ。

一日しか咲かないデイ・リリーを植えながら、この独りよがりの男は
そのうち君たちにも分かるよと、監督はしわがれ声としわくちゃの顔で
男の人生の結末を教えてくれる。

そしてもう一言、こう呟いて付け加えることを忘れていない
「後悔もあるが、どうしようもない。これが俺なのさ」。そんな彼の心の声が聞こえてくる。

西部劇のガンマンだったイーストウッドの語るのは、男の強がり。「これが老いぼれが終わっていく姿だぜ」とうそぶく彼。

あの横っ面よ。退役軍人らしく、ベタで甘ったるいラストにしないところが、破れてて正直だし、彼らしくて可笑しい。
やんちゃ 上等と思わないか?

娘は言っていた
「お父さんがどこにいるのか分かっているから安心よ」⇒刑務所(笑)

・ ・

日本では
65歳以上の高齢者、930万人が働いている。
年金だけでは足りないものね。

そして意地一本で、日本のアールたちも、きょうもどこかで生きていて、 ロバのように走っている。
お金よりも重要なもの。
家族よりも大切なもの。
―「自分のちんけな夢」を、デイリリーの夢を喰って生きているアホな連中がいるのだ。

きりん
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