劇場公開日 2019年3月8日

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「イーストウッド健在!」運び屋 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5イーストウッド健在!

2024年9月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

達成感も挫折感もない不思議な味わい。いろんな場面に自作のセルフパロディが散りばめてあるように思える。例えば『ミリオンダラー・ベイビー』。これはネタバレになるので詳細は明かせないが、病室で元妻を看取るシーン。ここは女優さんの演技が凄すぎて、本当に家族の臨終を見ている気になる。

それから『人生の特等席』での娘とのギクシャクした関係性とか、『パーフェクト・ワールド』での追う側と、逃げる側の付かず離れずの距離感なんかは、まるでもう一度あの映画たちを体感している気分になる。やっぱりイーストウッド作品特有のリズムとか、空気が全編にわたり支配していて、心地よく身を委ねられる。

隣で爆睡していたおデブさんのイビキには辟易させられたが、それすらも映画の一部に思えてくるから不思議だ。大抵は、派手なアクション映画で私自身、寝落ちしてしまうことがよくある。それは展開がわかっていて、おそらく主要な人物の誰も死なない、そして派手な音楽を伴うシーンでよくある。これは自分の意思とは無関係に起きることで、それを理由につまらない映画だったとも思わないようにしている。

だけどこの映画は、とても静かで展開もゆっくり。イーストウッドがド派手なアクションを繰り広げるはずもなく、一見して退屈な映画に思えるが、なぜか全く眠くならない。それは編集が巧みで、主人公の身の上に必ず何か展開が起きていて、大きな話の流れを忘れないからだ。それはセリフのひとつひとつまで磨き込まれ、含蓄のある言葉として身体に沁みてくる。そう言えば、字幕担当は、松浦美奈さんだったが、相変わらず的確でいい仕事ぶりだ。「99歳の老人だけが100歳まで生きたがる」なんて、セリフ以上に文字が語りかけてくる。

とにかく、イーストウッド健在。そして、またあの苦笑いが見られて良かった。

うそつきかもめ