「老い先短いジジイに怖いもの無し」運び屋 ロンロンさんの映画レビュー(感想・評価)
老い先短いジジイに怖いもの無し
爺さんが麻薬の「運び屋」をするタイトル通りの映画である。
ただ、それが実話を元にしたものである事とイーストウッドの監督兼主演の映画というだけの理由で観たのだが、それに1984年に劇場で観た「タイト・ロープ」以来の親子共演で娘のアリソンも出演しているというおまけもついていたので嬉しさが倍増した。
私がイーストウッドの映画を初めて劇場鑑賞したのはダーティー・ハリー2からだから40年以上前になる。今作と同じく「タイト・ロープ」で役柄でも親子を演じた、あの可愛い少女が、しっかりおばさんになって今作では年老いた父をなじって役立たず扱いをするのだから驚きである。
クリント・イーストウッドは50年以上第一線で映画に携わり数々のヒット作、名作を生んだ功労者として、また現役の映画俳優としては世界一の大物だと言える。そのイーストウッドの背中の曲がり具合に隔世の感があって、それがストーリーのリアリティを更に強くしていた。イーストウッドは実話となった事件から映画化のアイデアを思いついた時、これはワシが作るべきだと小躍りしたに違いない。それは主演が90歳の老人で麻薬密売組織の犯罪に加担するという前代未聞の内容だから、まさにうってつけなのだった。爺さんがどんな理由で何のために犯罪に手を染めていくのかが見もので、最大の見せ場は捜査官とジジイがニアミスで会話する場面。派手なドンパチは少ないが退役軍人でもある強気の爺さんが強面のギャングに脅されオドオドしながらも、開き直ってヤケクソでマイペースを貫くところは痛快でもある。今年5月で89歳になる彼の最後かも知れない監督兼主演の作品なのだからクリント・イーストウッドのファンのみならず最高の映画人の作品として観ておくべき映画だ。90歳の老人に何百キロも運転させるのは酷だとは思うが、実際に私の93歳になる父親も今だに運転を辞めないのだから車社会のアメリカならなおさらだ。若い頃のイーストウッドの痛快娯楽映画とは一線を画す、怖いもの知らずの現役の爺さんの、やけくそで、しっとりとしたロードムービーである。