劇場公開日 2019年3月8日

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「立体的で奥行きのある作品」運び屋 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5立体的で奥行きのある作品

2019年4月1日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

 監督主演のイーストウッドの演技についてはもはや言うことがない。常に存在感がある演技だが、その存在感が場面によって異なる。本作品でも、最初の方の割と軽めのおじいさんから、徐々に人生の重圧や苦悩などが加わり、その存在感が重味を増していく。この辺の作り込みは見事である。
 ブラッドリー・クーパーは「アメリカン・スナイパー」でも主演を務めたように、イーストウッド作品との相性のよさを感じる。とんでもなく歌が上手い人だから、音楽に造詣の深いイーストウッドと合うのだろう。本作品では官僚主義の圧力を受け、時間的にも予算的にも制約を受けながら捜査をするDEA捜査官を演じる。この人の存在が作品に緊迫感を与え、お気楽な老人のロードムービーとは一線を画している。
 愛情の深い妻を演じたダイアン・ウィーストをはじめ、ギャング役の俳優たちも、演じているように見えないくらい上手な演技で、演出したイーストウッド監督の面目躍如である。

 イーストウッドの作品はこれまで、スケールの大きな世界観と人間の機微を上手に描いているという印象であった。しかし本作品の主人公アール・ストーンの「家族が一番だ」という台詞から、一瞬、イーストウッドも狭量な家族第一主義に陥ってしまったのかと思ってしまった。だがイーストウッド作品はそんなに単純ではない。
 本作品は、アメリカが抱えている様々な病巣を主人公アールに背負わせて、ひたすら自動車を運転させる物語だ。インターネットリテラシー、格差、戦争によるPTSD、仕事と家族サービスとの軋轢、麻薬汚染、人種差別など、どのシーンにもテーマがあり、ひとつのシーンに必ずしもひとつのテーマとは限らない。そういった複雑なシーンの数々にアメリカンジョークを絡め、さらにお得意の音楽を添える辺りは流石にイーストウッド、立体的で奥行きのある作品に仕上げきった。

耶馬英彦