劇場公開日 2019年2月16日

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「アナーキーな恋人たち」金子文子と朴烈(パクヨル) バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アナーキーな恋人たち

2025年8月1日
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鑑賞方法:映画館

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関東大震災直後に起こった朝鮮人虐殺の最中に逮捕され、爆弾による皇太子(後の昭和天皇)暗殺を謀ったというでっち上げの大逆罪で死刑判決を受けた(直後に恩赦で無期懲役に減刑)植民地朝鮮出身のアナーキスト(無政府主義者)朴烈とその恋人である日本人アナーキスト金子文子を描いた映画。

僕はこの2人を全く知らなかったが、それは韓国でも同様で出演俳優たちも全然知らなかったとのこと。朴烈ら同志は爆弾入手を計画はしたものの失敗に終わっており、また爆弾の使用目的もはっきり決まってはいなかったらしい。また金子文子には秘密にしていたのだが、彼女は自分も計画の仲間だと主張して、同様に逮捕された。大逆事件というでっち上げの構図も、彼らは自らの思想を法廷で主張するために積極的に受け入れ、堂々と弁論を展開していったという。

映画は2人の出会いから、関東大震災(CGも使ってかなりリアルな描写)と自警団による朝鮮人虐殺、国際的批判を恐れた政府による隠蔽のスケープゴートとしての朴烈らの逮捕と取り調べ、そして裁判までを描いている。全編日本が舞台で7割ぐらいが日本語の映画だが、日本在住経験のある韓国人俳優や日本出身の在日コリアン俳優や日本人俳優を多く起用しており、時代考証にも不自然なところはほとんどなかった。特に小学生の時に日本に住んでいたという金子文子役のチェ・ヒソはほぼネイティブな日本語の台詞を話していて非常に好演。朴烈役のイ・ジェフンも熱演だった。

唯一、ん?と思ったのは、内務大臣の水野錬太郎があまりにもわかりやすい悪役になっちゃってるところで、観終わってからパンフを読んだら、やはりそこは史実と異なるようだ。イ・ジュンイク監督の意図としては「日本人vs朝鮮人」という民族的な構図になるのを避けたかったようで、そこで水野1人に悪役を集約し、その一方で2人を支援する布施辰治弁護士などの良心派日本人も多数登場させているとのことだが、政府の中で1人だけ徹底的な悪役にされちゃった水野はちょっと気の毒。

自警団による朝鮮人虐殺やアナーキストによる天皇制批判などの描写は、いずれも史実であるとはいえ日本映画だったらなかなか描けなかっただろう。力作でした。

バラージ