「今もどこかで」ばるぼら zxoidさんの映画レビュー(感想・評価)
今もどこかで
いい映画です。
ただし、オカルトやエロティシズムなどが衝撃的で、万人に向けられたものではないと思います。
行動に対しての理由も、よく理解できないところもありました。
ところが、そのオカルトやエロティシズムなどを取り払ってみると、しっかり心に残るラブストーリーなんです。
手塚治虫先生の本当の意図は分からないけれど、こっちでないかなと感じました。
主人公は、仕事としては成功はしているけれど、自分の作品の評価が気になって仕方なく、それから逃れられないような作家です。
常軌を逸したような、だけど、それだけ深い情熱をかけて書いていることが感じられました。
そして、都会からこぼれ落ちてしまったようなヒロイン。
(主人公)「相手はいくらだっている」
(ヒロイン)「いくらだっているってことは、誰もいないってこと」
主人公は、たしかに色々なものを失うけれど、何か大事なことを得たようにも感じました。
稲垣さんも、素敵でした。
役者や監督やスタッフの持つインテリジェンスが、このアーティスティックで衝撃的な作品を、受け止めやすいエンターテインメントにしていると思いました。
音楽もすばらしかったです。
どこのシーンを切り取っても、幻のような美しい映像でした。
マンガの神様と呼ばれることは、むしろ苦痛なことも多かったのではないかと思います。
きれいごとというのは、いつも揚げ足を取られるものだし、その通りに生きていくことだって不可能でしょう。
だけどおそらく、主人公の美倉先生のように、とても強い思いで作り上げたであろう、たくさんの作品のおかげで、教科書にはのっていない、とても大事なことを教えていただきました。
今もどこかで、彼をルーツにもつ誰かが、孤独で救われないミューズのために、ありったけな思いで希望を書いている。
そんな想像をしました。