「荒々しくストレートな青春物語」惡の華 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
荒々しくストレートな青春物語
荒々しいが、青春というものをしっかり捉えた面白い作品だった。題名からシリアスな作品だと思っていたが、青春時代を経験している者なら誰でも、心に刺さるシーンが多い、異色ではあるが純粋な青春物語である。青春時代の閉塞感、抑えきれない感情の暴走、未熟な自己表現、異性への想い、など、青春のエッセンスを荒っぽく詰め込んだ、見応えのある作品である。
主人公は中学生の春日高男(伊藤健太郎)。彼は、刺激の少ない街での中学校生活に閉塞感を感じていた。ある日の放課後、彼は、教室で、クラスのマドンナである佐伯奈々(秋田汐梨)の体操着を見つけ衝動的に盗んでしまう。それをクラスメイトの仲村佐和(玉城テイナ)に見られ、黙っていることを条件に、佐和の言うことを聞くように迫られる・・・。
いつもオドオドしていて、背伸びしてボードレールの『惡の華』を愛読書にしていることを自慢している春日、暴言を吐き、暴力的態度で問題児の佐和、見かけは清楚だが内に秘めたものがありそうな奈々。三人の個性がぶつかり合いながら物語は展開していく。
佐和がとんでもない問題児に見えるが、そうではない。何もかもが納得できず、逆らっていく佐和は、既成概念には飽き足らないが、目指すものが見つからず彷徨している。青春時代の若者の心情をストレートに激しく表現している。当時、色々なものにぶつかっては跳ね返され続けていた自分と重なるものがあり、胸に迫るものがある。
一方、春日は、理性、プライドで本当の気持ちを覆い隠していたが、佐和に刺激され、導かれて、彼の心は開放されていく。春日には佐和の思考、価値観が分からない。やがて、それは未知なるものへの憧れとなり、佐和への想いとなっていく。
ラストが素晴らしい。佐和の想いが切ない。春日は佐和を乗り越えなければ次に進めない。大人になれないことを強く示唆している。
本作は、青春の激しさと彷徨をストレートに表現した良作である。