「『大人計画』の底力」108 海馬五郎の復讐と冒険 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
『大人計画』の底力
まぁとにかく現在一番チケットが取れない劇団であり、現在のテレビプログラムに於いて一番劇団員を輩出しているであろう団体の創立30周年記念作品ということらしい。勿論、そんな有名人達が集まる劇団の芝居なぞ観劇できる筈もなく、或る意味今作品が初めての“主催による『大人計画』”の作品鑑賞である。それもR18指定だ。ヒロインに中山美穂ということで、いろんな意味で期待も膨れあがるがw、アッチの部分は肩透かしだったのは残念なのだが(苦笑
ストーリー的には単純で、妻の浮気に憤った男が、しかし離婚の際の財産分与が折半という法律に益々火に油が注がれ、財産分(1,000万円)を性欲に使い果たそうと奮闘する“バカ話”である。如何にしてこのくだらない愚の骨頂をエンターティンメント化するのかが、風貌も含めて“奇才”松尾スズキの手腕といったところだが、そもそも何故にこれを映画というメディアにしようと思ったか、というより、今作を観たら確かに映画しか具現化できない内容である馬鹿馬鹿しさに、映画の多様性、懐の深さを改めて心に染みる有難さを思い知る。AV程の直接的ビジュアルは描けない、そんな制約の中で如何にして観客を愉しませるか、その辺りのトンチを巧く演出できていたと思う出来である。
とにかく、ギャグセンス、コメディ要素は上出来である。スピード感を伴ったパンチの応酬は流石、チケットの取れない劇団の力量だ。ゲスな内容の畳み掛けに眉を潜める人もいるだろうが、今回鑑賞した映画館では自分も含めて2人だけw 何をやっても自由なのである。心底ゲスの極みを笑い飛ばしても咳払いする奴もないw 構成自体は良くある、冒頭のシーンがラスト前に繋がる流れで、回顧シークエンスからのラスト突入の流れである。結局、妻の浮気が単なる妄想というオチで、最後の残金を使い果たすために噂の“風俗島“に向かっている船上で葛藤する場面でエンドロール、エンディング曲は劇団員でもある星野源という豪華さに、この作品自体こそこのストーリーを具現化している、ドブに捨てている制作費そのものを象徴しているメタ構造にかなりの衝撃を覚える。
ギャグの一押しは、主人公の父親の葬式でさえ、途中退場しようとする主人公に、その息子が遺影で父親を殴り、主人公の妹が「遺影」と叫んだところで、息子が「イエーイ」とサムズアップした件の秀逸さである。無責任で自分勝手な主人公、いつも貧乏くじの妹、そして愛されてない息子、この長いフリの回収をこうした絶妙のギャグタイミングでのシーンで構成する松尾のセンスが冴え渡る出来なのではないだろうか。ギャグといえば、口枷をつけて登場する出オチも緩急があって中々微笑ましいw
かなりの突き抜けたゲスい話を笑わせてくれたプロフェッショナルさに感銘を受けた内容である。それにしても、中山美穂は脱ぐべきだ!