劇場公開日 2019年3月23日

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「しっかり怖い」コンジアム 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0しっかり怖い

2020年7月11日
PCから投稿

韓国のホラーオムニバス、ホラーストーリーズ(2012)は四つ入っていて、冒頭が「太陽と月」だった。他三つは特筆ないが「太陽と月」だけはすごいショートムービーだった。スタイリッシュで、おもしろくて、カメラも凝っていて、子役を含め演者の表情を拾い尽くしている。まるでハリウッドの名だたる映像作家みたいな手腕を、韓国映画で見たかんじがした。
その監督が本作のチョンボムシクだった。

POVスタイルが予算をかけずに映画を撮る方法だとは解る。ブレアウィッチから、とりわけアメリカではPOV画面を見ただけで辟易するような濫造の時期があった。
落ち着いたのは、アイデアが出尽くしたからだろう。また、そもそも予算をかけずに撮ることがPOVの第一義なので、いったんPOVを卒業したクリエイターは戻ってくることがない。
結局、お金がないわけではないプロダクションが、方法論としてPOVを採択するとき以外にPOVが撮られることはなくなってきたと思う。

この映画もつくりはPOVそのものだが、潤沢な予算が感じられた。
撮影機材が揃っているし、男女が揃ってきれいな顔をしている。ライブカメラが顔から数十センチで表情をとらえるので、顔の抵抗値には腐心が窺えた。POVの都合上、役者としての認知度が低いのに、いい顔を集めなければならない──からだ。
ロケーションとなる廃墟もホントっぽさがあり広い。
POVを体現するカメラは主二台で、加えて個々にライブカメラ、廃墟内に追尾機能をもつ固定が六台、ドローンが一機。撮影はときとして広角ビューにもスプリットビューにもなった。
煩雑な編集だったにちがいないし、監督にもホラー撮影の練達が見えた。
総じて、しっかりしたプロダクトなのは解った。

設定には現実味がある。
POVでは演技者が映画中映画に出演している。
あまり上手ではないPOVでは、映画に出演している──ように見えてしまう。些細なことに思えるが、映画に出演しているように見えてしまうとPOVは瓦解する。
その前提を易々クリアしている。

当初、探検者たちはみな軽いノリを見せる。常套手段だが、導入前の楽観を見せると、後の恐怖が煽られる。わたしも、ああふつうのPOVホラーですねと思って軽いノリで見ていた。
──しかしこれはホントに怖い。筋書きも緩急も巧いし、出演者の戦慄顔だけでもかなり来る。POVでこんなに怖い映画は滅多ないと思った。

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津次郎