「知ってた」笑顔の向こうに narunaruさんの映画レビュー(感想・評価)
知ってた
あらすじを読んだ時点で既にオチが予想できていたが、
実際に全編見た上でその予想を超えてくることは一度もなかった。
ある意味では「期待」していた通りのつまらなさだった。
まず根本的なこととして、この話を歯科技工という題材の中で描く必要があったのか。
明らか過ぎるほどに歯科技工という題材は添え物で、終始展開はイケメンや美人の恋愛モノのそれ。しかも古い。
これでは題材が刀鍛冶でも料理人でも、結局最後にはあのラストシーンに帰結するだろう。制作する意味あったのか?
歯という「人体の一つの部品であり」、「一生その人から離れない」というモノ、
それを日常的に使える喜びや失うことの恐ろしさに対して真摯に向き合ったのか、制作サイドには強く問いかけたい。
おくりびとのように歯一つに死生観まで持ち出してこいとは言わないが、
映画ひとつに多少なりとも命を削る真剣味というものが制作側にまったく感じられない。
ほかに何か光るものはなかったのかと思い返してみたが、脚本も演出も稚拙さばかりが目立ち、
うんざりするほどいいところがなかった。
気になったシーンの一つとして冒頭の親子喧嘩を挙げてみるが、
主人公の大地が父に「半人前」と見くびられ、自作の入れ歯を見せるが「やはり半人前」と批評されるシーンがある。
後半から種明かしすると、大地の入れ歯は実際に入れ歯を使用する人=顧客の潜在的な要望や習慣をつかみ切れていない
審美性のみを追求した無機質な入れ歯、独りよがりの作品だと父は評しているわけだが、
そういった答えを提示するなら、冒頭で大地の入れ歯に対して父親が
「これはどういう人のために作成した入れ歯だ?」と質問しなければフェアではない。
「見ただけで小奇麗なだけの入れ歯だったから半人前だと評したのだ」という反論はあたらない。
顧客の要望を重視するなら、まさに審美性のみを重視する人間だっていないということはないはずだし、
そういった想定を外して大地に対して何の予備情報を得ることなく上から批評の目を向けること自体、身勝手で不公平である。
結局のところ、そういう事情を一切無視して父親が大地の入れ歯を「半人前」と評したのは、
先にネタバラしをしてしまうと面白くないから、という、登場人物の感情に一切関係のない、ただただ脚本上の都合に過ぎないのだろうが、
とにかく練り方が足りないというか、この人物は何のために出てきたのか、この台詞は何のためにあるのか
いちいち意図が透けたり無意味だったりと終始気になってしまい、鑑賞どころではないのである。
脚本だけでなく演出もこんな調子で、「やっば!☆遅刻遅刻」から始まる
90年代のりぼんの漫画のコマ割りをそのまま実写に持ち込んだかのような絵面に正直失笑を通り越して恐れのようなものを抱いてしまった。
スタッフロールの最後にドヤ感満載で出てくる日本歯科医師会がこの映画にどういう形で
どこまで関わっているのか、正直もう知りたくもないが、この日本で「歯科」に関わる駄作が生まれてしまったということについて
ひたすら猛省していただきたい。