「ドキュメンタリーの概念を覆す映画」盆唄 shironさんの映画レビュー(感想・評価)
ドキュメンタリーの概念を覆す映画
てっきり双葉町の盆唄をハワイに伝えるドキュメンタリーだと思っていたのですが、それだけにとどまらないスケールの“映画”でした。
一人の人物や一つの物事を追い、そこから監督がすくい上げたテーマを見せてくれるのがドキュメンタリーのイメージでしたが、本作はどんどんスポットライトが移動していきます。
そして通常のドキュメンタリーではありえないラストシーン!
暗闇に鳥肌が立ちました。
故郷の双葉町に戻れず、避難先での生活をおくっている方々。
でも、その双葉もかつては富山からの移民を受け入れた土地だった。
いろんな事情を抱えて故郷を離れ、新天地で長い時間をかけて根を下ろす。
祭りへの参加は、その土地の者として認められたという証なのかもしれませんね。
ふと、亡くなった祖母の言葉を思い出しました。
「ずっと自分は根無し草だと思っていたけど、やっと居場所が出来た気がする。」
故郷から遠く離れた土地で結婚し、疎開先で夫を亡くし、女手一つで5人の子供を育てあげた祖母。
そこから一緒に上京した息子が結婚して私が生まれ、学校に通うようになり、地域の行事に参加し、祭りの準備に協力する。
顔見知りが増えて、自分がどこの誰なのかを近所の誰もが知っている。
きっとそれが祖母にとっての“根を下ろす”だったのだなぁ。
土地を持たない私なんかだと、近所づき合いは面倒…むしろ誰も私を知らないでいて欲しいと思いがちだけど(^^;;
そもそも盆踊りは生きてる者を結びつけるだけではなく、自分の先祖やその土地で心半ばに亡くなった人達の鎮魂なのだから、
同じ振り付けで踊り続ける行為をトランス状態になり易くする儀式と捉えると
横の繋がりと縦の繋がりの中心にヤグラがあってその周りを円が取り囲んでいる。
円は始まりと終わりを繋いで永遠を表し、生と死をも繋げようとする。
盆踊りとは、とてつもない奇跡とエネルギーの集まりのような気がして、
自分達の命と向き合う為にも、祭りのリズムを絶やさぬよう、入れ替わり立ち代りヤグラに立って歌い継いでいくべきものなのだと感じました。