パリ、憎しみという名の罠のレビュー・感想・評価
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あろうことか誰にも共感できないズッコケノワール
アントワヌは義父アロンから会社経営を引き継いだものの瞬く間に立ち行かなくなり破産宣告。家族のいる前でアロンに罵られて激昂、悪友達と夜遊びして帰宅したところを妻にも咎められて家を叩き出される。そんな折ケータイを海外から無税で仕入れて売上税を乗っけてフランス国内で売り払って納税せずにバックれた成金がバカ騒ぎしているのを見たアントワヌ、CO2排出規制に目をつけ海外企業から余った排出量枠を買い付けて売上税込で売り捌くビジネスモデルを考案し出資者を募るがアロンに妨害されて資金調達で行き詰まる。結局ギャングのキャメルから何とか借金して事業を始めたアントワヌはたちまち成功を収めるがそんなインチキが長く続くはずもなく・・・というフレンチノワール。
これがまあものの見事にしょーもない、監督・脚本がオリヴィエ・マルシャルなのに!『あるいは裏切りという名の犬』、『すべては彼女のために』、『そして友よ、静かに死ね』といった傑作群と比較すると解るのですが、まず本作の主人公には全く何も共感出来ない。マルシャル作品はだいたい何かしらやらかした人が主人公ですが、止むに止まれず一線を越える苦悩があるから感情移入する余地があるのに本作の主人公はただ無能なだけ。全て因果応報なのでノワールの肝と言えるむせ返るような友情とか常軌を逸した純愛や家族愛にほとんどスポットが当たらず、いつまで経ってもサビが来ない。また売上税の脱税というのもカラクリがアホみたいにシンプルで、その程度のトンチでポルシェとかフェラーリ買えるってどんだけユルいんだ、EU?と思いましたが、実際に10年前に流行った手口みたいですね。要するに仮受消費税はあるけど仮払消費税がないからネットキャッシュをガメました、みたいな・・・リアルだけど時代遅れみたいな手口は見てても全然面白くない。決定的にダメなのは冒頭シーン、なぜこんなものを最初に見せるのか?何か実生活でイヤなことでもあったのかと明後日の心配をしてしまいます。
ちなみに義父アロンを演じてるのがジェラール・ドパルデュー。まあフランス映画といえばこの人出しとけみたいな、邦画でいうところの竹中直人みたいなポジション。この人が出てるだけでなんとなく作品の風格が上がりはするのですが、そもそも俳優として個性的すぎるので役柄がハマらないとポッカリ浮くタイプ。もちろん登場した瞬間からプッカーって浮いてましたね。ということで最初から最後までそりゃそやろ!とツッコミを入れながらじゃないとやり過ごせないほどに退屈、登場人物の誰にも共感出来ないシリアス過ぎる『翔んで埼玉』みたいなズッコケノワールに仕上がってました。信頼している監督ですらこんな駄作を作ってしまう、ラテンな雑味が裏目に出るとこうなる、いい勉強になりました。
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