「彷徨うアメリカ」華氏119 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
彷徨うアメリカ
振り子は片方にだけ大きく振れるのではない。
アメリカの政治はずっと振り子のように振れ続けてきた。
しかし、国民皆保険を掲げたオバマへの期待値が高かった分、その反動は大きかった。
また、そのオバマでさえ、大きな振れの一部だった。アメリカは、911に続くアルカイダとの争いや、在りもしない化学兵器を理由にしたイラク戦争、そして、金融バブルの崩壊で自信を失い、疲れ切っていた。
そう、オバマは希望の星だった。しかし、オバマの時代にも格差は広がり、伝統の自動車産業にも破綻する企業が出てしまった。そして、ついには、トランプが登場する。
マイケル・ムーアは言う。「希望」はダメだと。何も起きない。受け身だと。希望は、作中の前半に何度も出てくる「譲歩や妥協」と同じ目線で語られているのだ。
そして、必要なのは「行動」なのだと。
中間選挙の前日、NHKクローズアップ現代が、共和党は、アメリカ有権者一億人のデータのうち、ピックアップトラック保有者に集中して、銃規制反対・トランプ支持のメッセージを送るのだというレポートを放送していた。ピックアップトラック保有者の多くは、狩りをする傾向が高く、銃を保有してるからというのがその大きな理由だ。
アメリカの高校生が、必死に大切さを訴える「人命」と、狩りが、ピックアップトラックを通じて、選挙活動では同列に語られる状況に寒気すら覚えた。
ただ、こうした断面のみから、政治全体を評価することに、僕には、やや抵抗がある。特定の視点から政治を評価することは容易いが、イデオロギーもその容易さを利用するからだ。
僕たちは、短絡的な怒りより、イデオロギー側の行動を分析する客観性を磨かなくてはならないと思う。
そういう意味で、この映画は意義深い。特定の問題に焦点を当てつつも、可能な限り多角的で客観的な視点を維持しようとしているからだ。
彷徨うアメリカの問題は、きっと僕たち日本の問題でもある。
政治は、僕たちを見ているか、未来を見ているか、一体何を見ているのか、じっくり観察しても良いかもしれない。