「最高?普通?最悪?…最高! 彼こそ、本当のヒーロー!」パッドマン 5億人の女性を救った男 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
最高?普通?最悪?…最高! 彼こそ、本当のヒーロー!
インドから、ヒーロー映画がやって来た!
え? どんな特殊能力を持っている?
いえいえ、彼は至って普通の男。
でも、正真正銘のヒーロー。
インドで安全で安価な女性用生理ナプキンの開発と普及に貢献したアルナーチャラム・ムルガナンダム氏の実話に基づく物語。
…と、ただ言ってしまえばそれだけ。
しかし、本当に苦労の連続だった!
きっかけは、妻だった。
毎月訪れる女性の“アレ”。その時妻が汚い布を使ってるのを知って、ラクシュミ(物語や人物は一部脚色)はショックを受ける。
ちゃんとしたナプキンを買おうとするが、驚くほど高価。
それでも妻の為にと友人から金を借りてまで買うが、逆に妻に咎められる。
こんなのに大金を使うなら、食費や生活費に。こんなのに大金を使うくらいなら、今まで通り布でいい。
納得いかないラクシュミ。ならば、作ってしまえ!
友人からクリーンな綿や布を分けて貰い、見よう見まねの自家製ナプキン。
早速妻に使って貰おうとするが、妻はこれに酷くショックを受ける。と言うのも…
インドでは女性の生理について触れるのはタブー。
“恥”であり“穢れ”。その間は家にも入れない。
ましてや男がその事やナプキンに触れるなんて…。
また、この当時(2001年)のインドに於ける女性のナプキン使用率は僅か12%。汚い布や紙や葉っぱを使い、時にはそれらが原因で感染症や不妊になる事も…。
ただ妻の身体を思い、良かれと思って始めた事なのに…。
妻からOKを貰うまで、ラクシュミは試行錯誤を繰り返す。
密かに身内に使用して貰おうとしたり、医学生にリサーチしたり。
発明あるある。自分で実際に使ってみたり。(どう使ったかはご想像にお任せします)
が、ある失敗で、ラクシュミのやってる事が村中に知れ渡り…。
フレンドリーで真面目で、家族を大事にする立派な男だと思っていた。本当は、頭のおかしいイカレ野郎だったのか。
村中からは、ヘンもヘン、大変態。
身内からは、恥も恥、大恥。
まるで殺人でも犯したような大罪人扱い。
こういう場合、妻だけは唯一擁護してくれるものだが…、その妻が夫を恥じている。
こんな恥と辱しめに晒されるくらいなら、死んだ方がマシ、とまで…。
村中、身内、妻からも見放され、ラクシュミは村を出ていく…。
自分の家族や人生や幸せをメチャクチャにしたナプキン。
もうナプキンなど二度見たくもない!…と、普通は思う所だが、ラクシュミは諦めない。
よりいいナプキン開発を続ける。それこそ、何もかも犠牲にしてまで。
どうして、そんなにも拘る…?
拘りたいからだ。
ここで諦めてしまったら、これまでの事は何だったのか。
それに、妻一人も守れない男なんて男じゃない。
確かに、男が女性用生理ナプキンを作る。
非難や軽蔑の格好の標的だろう。
でも、それがあるという事は、それを作った者が居るという事だ。
偶々それが女性用生理ナプキンだっただけ。偶々それを作ろうと思い立ったのが男だっただけ。
それの何処がおかしい? 何処がヘン?
寧ろ、女性の身体の自然的な現象を恥や穢れとし、そんなのには汚い布でも使ってればいいといった風潮の方こそおかしい。
誰かが、これじゃダメ、これじゃおかしいと気付く。
誰かが始めなければ。
諦めず、失敗や試行錯誤、苦労を続け、やっと理解してくれる協力者が。
ある大学教授の息子のパソコンから、ナプキンの原材料を知る。
その大学教授から、ナプキンを作る製造機を購入するよう薦められる。
原材料は購入出来ても、さすがに製造機までは購入出来ない。
ならば…
自家製ナプキンの時同様、製造機を作ってしまえ!
ラクシュミは元々工房務めの腕のいい職人。
製造機の原理を自分なりに分かり易く理解し、見事作ってしまう!
そして、最大の転機が訪れる…。
自立した都会的な女性、パリーとの出会い。
出会いのきっかけは勿論、ナプキン。
ナプキンを自分でも作ったというラクシュミに好奇心と関心を持つ。
彼女の薦めで、開発したナプキン製造機を発明コンペに出品。
すると…、何と見事、大賞を受賞!
やっと彼のやって来た事が認められた!
特許を取り、会社やブランドを立ち上げて世界中に売れば、億万長者に。
めでたしめでたし。
…と、本来はなるのだが、
ラクシュミはそんな億万長者になれるチャンスを捨てる。
もし、そんな事をしたら、せっかく安価を目指して作ったナプキンの値が上がってしまう。
自分はそんな金儲けの為に作ったんじゃない。
ただ、多くの人の安全の為に、安く買える為だけに。
バカが付くほど私利私欲の無い男なのだ。
ラクシュミはまた地道にナプキンを使って貰うよう各地を歩いて回る。
が、やはりまだまだ抵抗や偏見が付いて回る。
そんな時再び力を貸してくれたのが、パリー。
ラクシュミは発明家。物作りには長けてても、物を宣伝したり売ったりする事までは…。
ましてや女性の性に関するもの。
女性で尚且つ社交的なパリーの存在が物を言う。
何でもかんでも一人では出来やしない。
サポートしてくれる人物が必ず居る。
ラクシュミにとってパリーは、その名の通り、導いてくれた“妖精”。
ラクシュミ、つまりムルガナンダム氏の功績は、安全で安価なナプキンの開発だけではない。
それを作る為、女性に働く場を与えてくれた。
インドと言えば他の映画でも触れられていた通り、男尊女卑社会。
女性の社会に於いての地位や立場は著しく低い。
そんな女性たちに自立の場を。
本当に二重に頭が下がる。
いつの時代も前例の無い何かを始める時は必ず非難の的。
それを切り拓く。
自分の為じゃなく、誰かの為。多くの人の為。愛する人の為。
功績が認められ、ラクシュミに国連でスピーチの依頼が。
たどたどしい英語でスピーチするラクシュミ。
ユーモアも交え、しかし熱く、感動的なそのスピーチは、ラクシュミの人柄や全てを物語る。
やはりインドは世界随一の娯楽映画の帝国。
インド映画としては比較的短めの140分(他国の映画だったら充分長尺)の中に、主人公の伝記/サクセス・ストーリーを軸に、笑いや感動、社会的な問題を織り交ぜ、全く飽きさせない。本当に面白い!
監督は新鋭らしいが、とてもそうは思えない手腕。
主演アクシャイ・クマールの熱演も素晴らしい。
切なさも。ラクシュミとパリーの間に仄かな感情が。
ラクシュミは妻を心から愛している。パリーも一時のただの高ぶった感情と言うが…
別れの後、ラクシュミの人柄や想いを語るシーンが涙を誘う。
演じたソーナム・カプールもインド美人。
妻への愛が始まりだった。
それが多くの女性の為となり、自立の場も与え…
誰にも真似出来ない苦労の連続とその乗り越え、功績、決して諦めなかった信念…
彼をヒーローと呼ばずして誰をヒーローと呼ぼう。
本当のヒーロー。
その名は、パッドマン!