「三谷映画の支持率回復を目指す、手堅いコメディ」記憶にございません! Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
三谷映画の支持率回復を目指す、手堅いコメディ
"史上最低の前作"から一転、多くの"国民"がコレを待っていた。三谷監督の支持率回復を目指す、"史上最低の支持率の総理大臣"を描くコメディ。
金銭授受疑惑、女性蔑視、セクハラ、私的人脈優遇、暴言・・・等々、まったく国民人気がない黒田啓介総理(中井貴一)。しかも影の実力者である鶴丸官房長官(草刈正雄)の傀儡(かいらい)政権でもある。
そんな黒田総理は、ある日、市民の投石が頭にあたり、記憶喪失になってしまう。そして側近、閣僚、家族を巻き込んでいく。
三谷監督の得意なシチュエーションコメディなので、安心して見られる反面、舞台演劇的な脚本は、映像的な技法はほとんどなく、あえて"映画"である必要もない。特に本作は、"お笑い"としてはラジオドラマでも再現可能だろう。
それほど洗練されたプロットという意味だ。おそらく本人も分かっているのだろう。三谷映画は銀幕スターを物量投入するという手法で、強引に"映画"にしてしまう。もし無名俳優だけで作ったら…と想像すれば、理解できるだろう。
せっかく政治がテーマなのに、ブラックジョークは弱く、その矛先は鈍っている。良質の"お笑い"は、時代の強者と戦うべきだ。もっとできるはずなのに、と考えると残念。
三谷映画の信頼回復のため、キャスティングも手堅い。
中井貴一と佐藤浩市という常連組を真ん中に、「ギャラクシー街道」(2015)以降にブレイクしたディーン・フジオカ、吉田羊、田中圭などを採用。さらに石田ゆり子、草刈正雄、小池栄子、木村佳乃、斉藤由貴など、TVで公私にコミカルな一面を見せる人気俳優を並べている…このあたりも三谷監督の得意とするところ。
もちろん三谷監督以外、こんなことは誰にもできないこと。けれど三谷作品としては標準的で想定内だ。とりあえずは前作をなかったことにする、仕切り直しにはなっている。次作はまた冒険的な挑戦を再開してほしい。
単純に笑えるという意味では、良質なエンターテイメント興行作品。まちがいなくヒットする。
(2019/9/13/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ)