「狙撃手」ダウンレンジ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
狙撃手
監督は日本人ですがコンスタントに米資本にも乗せていて珍しいキャリアだと思います。
上戸彩主演のあずみ(2003)やブラッドリークーパーのThe Midnight Meat Train(2008)が知られていますが、ハリウッドで名をなした監督であるわりには地味な印象があります。
でも、このDownrange(2017)はよく覚えていました。
狙撃手は匿名コメントに似ています。
わたしは社会の底辺ですが、ひとつだけ矜持をもっています。ヤフコメを書かないことです。
ヤフコメがクソなのは、コメント主に自覚がないからです。何者か明かさないのに(たとえ立場や肩書を披瀝したとしても、その裏付けができないのに)評論家きどりで対象を扱き下ろしているからです。
ちなみにわたしも評論家きどりで映画を扱き下ろしますが、すくなくともわたしはじぶんが評論家きどりで人様の作品を扱き下ろしていることを知っています。
(他人から見ると全く同類に見えますが、わたしもあなたも主観のなかで「おまえらとは違うぞ」という矜持をもっているものです。そのことにうまい理由はありません。だって人間だもの──という話です。)
じぶんを明かさず安全なところから人を攻撃する──まさにヤフコメ民は狙撃手のようなものです。
その「卑怯」を映画Downrangeは、うまく抽出しています。
車で旅行している男女が、何者かに狙撃されます。
タイヤを撃たれ停車し、ひとりづつ標的にされます。
攻撃してくるのは誰なのか、何故なのか、わかりません。
映画のあらましそれだけですが、ひきつけます。
おそらく本作の主人公はリアルな「音」だと思います。
わたしはじっさいの銃の音を知りません。むかしハワイかグアムでちんまりした口径の銃を撃ったことがあるていどです。
映画は飛距離の長いライフルの発射音と対象に当たる鈍い音をとらえています。
とても恐ろしい音がします。
それがこの映画のすべてであり、スピルバーグの激突のように単一局面を伸ばして語るsimple premiseの映画ですが、かなり持っていきます。あちらの評に「Nerve-Jangling」というのがありましたが確かに神経を逆なでさせました。
imdbは5.5で「可」というところでしたが、過小評価な気がします。
ところで、匿名コメント主の自覚は「優位性ある事象のひけらかし」によって判別できます。優位性ある事象とは──
年功(人生のセンパイ)
経験値(苦労話)
知り合い(広い多様な交遊)
達観(「まぁ」で書き始める奴)
血税(百姓一揆だと思っている奴)
つまり「まぁ、いろんな経験してきて、世界じゅうに友達がいっぱいいるけれど、血のにじむ思いで税金おさめてます」──と言ってしまう手合いに自覚はありません。
ネットに匿名文を載せるなら、すくなくとも寂しいやつが狙撃しているだけなのを自覚すべきでしょう。ちなみにわたしは寂しいやつですw。