「高級な酔いどれどもの与太話」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
高級な酔いどれどもの与太話
タランティーノ作品はそれなりに観ているが、いつも思うのは、突拍子もなさを競いとめどなくエスカレートする酔いどれどもの与太話を本格的に映画化するとこういう感じなんだろうな、ということ。
今回は、ハリウッドの裏側を、ある映画俳優たちの数日、という感じで描きながら、回想に様々な伏線を張り巡らせた。スパイスになっているのは、凄惨な場面に最も近いところにいながら、なぜかそこに全く絡まない天使のようなシャロンテートの日常だ。彼女が、撮影中のエピソードを振り返りながら自分の出演作を観賞し、出演者特権を存分に利用する姿が、全く嫌みなく、愛おしさすら感じられる。ちょっとばかりじわっときた。
ディカプリオ演じるリックダルトンと子役の絡みは、予告で先に観ていなかったらもっと笑えたはずである。ああいう、作品の肝は、予告に入れてほしくないとつくづく感じた。
ブラッドピットは、いよいよ円熟味を増し、演技力の高さが鼻につかないほどに役を生きている。実は、この映画で最も印象的なシーンは、彼がリックの自宅のアンテナを修理すべく屋根に上がる場面である。どうやって上がるかは、ぜひ観賞した際のお楽しみにしてほしい。クリフが、関係者に疎まれながらも、来たるべくチャンスを生かすために、日々どれほど鍛練しているかが、このシーンひとつで理解できた。プライドの塊で、非常に面倒くさい奴だが、ストイックなまでに自分がするべきことを理解し、一度結んだ絆は決して裏切らない人間である。タランティーノは日本の任侠物に造詣が深い監督としても有名だが、今回の任侠は、間違いなくブラッドピット演じるクリフブースだ。
古い映画の知識があれば、もっと楽しめたろうが、あいにくそれほどの映画オタクではない。前に座っていた老夫婦がしきりに笑っていることに気後れしながらの観賞であったので、マイナス0.5ポイントである。隣で観ていた長男は、もっと分からなかったらしく、ラストのクライマックスの爽快感だけが残ったそうだ。伏線の回収は見事で、ああ、あのアイテムがここで出てくるんだあ、と笑いながら納得していたが、そこまでが長い!と言っていた。確かに。
タランティーノのテンションに追いつくために、一杯引っかけてから(いや、数杯か)観賞するのが一番よいだろう。ラストのクライマックスでは、みんなで拳を振り上げて喝采を捧げたい。