「タランティーノ流HIPHOP」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
タランティーノ流HIPHOP
TBSラジオ、アトロクでも宇多丸氏が評論していたように、確かにHIPHOPでの手法としての過去の偉大な楽曲を改めてリミックス、リアレンジしながら、一つの曲に集約、又は積算していくような内容であった。一見すると喩えが悪いが『歴史修正』の言葉が浮かぶのだが、いわゆる『もしも~だったら』というシリーズの引き出しにいれてしまいがちになってしまうところ、今作はラストのオチのところのみ並行世界、否、そもそも主人公二人自体が実在じゃないのだから、世界観だけは同一で主軸が創作という、二次創作モノといったジャンルであろう。そして、確かにどのサイトのレビューにでもあるマンソンファミリーの事件を知ってると知っていないとでは丸っきりこの作品の見方が180度変わってくることを体現した。タランティーノ自体は、知識が無くても面白く作ったつもりと答えてはいたが、アメリカ以外の国、ましてやアジア圏の国ではこの事件やその背景等をそれなりに深く考察していないと、単なる60~70年代の映画ビジネスの世界を紹介しただけの、後は監督流のハチャメチャ演出でクライマックスという別段何の引っかかりもない内容なのでないだろうか。勿論、随所にあの時代の音楽や映画、テレビやそれを含めたアメリカ文化というものを研究発表するという意味合いも存在はするのだが、それはオリジナルを知っていて初めてそのリミックスの妙に関心を抱くもので、原本が分らなければ本作を何処まで愉しめるか難しい。レオ様も、ブラピも確かに存在だけでオーラが目映いばかりのスター俳優であり、この共演そのものが奇跡と言ってしまえばその価値だけで作品なのであろう。でもならば、監督がタランティーノでなくても他に充分スター映画を撮る監督はいる筈。この二人の役どころそのものが映画文化の一つの歴史であり、光と影をお互い入れ替わりながら表現してみせている演出なのであろう。この二人は人間であって人間ではなく、その時代の“空気”そのものである。それを観客に容易に知らしめる為に、あのスター俳優を起用したのだろうと思う。圧倒的人気者だからこそ発するその雰囲気がそもそもカルフォルニアの太陽そのものなのである。バディものとしての出来も充分“ブロマンス”を表現していて良い。
で、本作そのものの本題は殆どラスト位でしか描かれない。そのラストの一点の為にだけ、後半までの話は冗長とも思える抑揚の少ないというか、琴線の引っかからない内容に始終するのである。多分、ここを丁寧に、やもするとしつこい位に説明しないとフリとして機能が劣ることになる筈と思ったからであろう。保険を掛けまくった訳だ。特にブラピがスパーン映画牧場へ乗り込むシーンは、ブラピの目を通しての観客へのイメージの刷り込みとして充分に演出されている。ベトナム戦争帰りの男の目から視るヒッピーのあの狂乱とキチガイじみた退廃は、自分の存在そのものの否定を頭に過ぎらせる程であるが、しかしだからといって自分の過去を否定しない力強さも又、アメリカの一つの顔でもある。
前述した“マンソンファミリー事件”の件は、事実を知れば知るほどその時代の闇をつぶさに垣間見せる。白眉はその主導者たるチャーリーマンソンはワンシーンしか出演していないこと。そしてそのワンシーンの意味が既知でなければ、何の意味もないことも又然りである。何故にシャロン・テートをポランスキー越しに確認したのか。そしてチャーリーはファミリーに殺害指示を出した先であるロマンポランスキー邸であるのに(本作であるように実際は以前の家主に文句があって訪問したのに引っ越してしまっていたのだが、映画音楽産業の連中自体に逆恨みを抱いていた事実)、実行犯達は間違えて隣の家に侵入したのか、それとも以前の牧場でのブラピへの復讐、又は安易にレオ様へのターゲット変更だったのか、その辺りの解釈の幅を持たせつつの世界の分かれ道を巧く作り上げた監督の高い狡猾さである。そしてそこからの圧巻の返り討ちのクライマックス、最後の火炎放射器は正にタランティーノ節の面目躍如であろう。かくしてシャロン・テートは殺されず、これからの映画産業に貢献する程の大女優になる可能性が残り、そして二人の主役も又、浮かばれるかもしれない。『日本が戦争に勝っていたら』的な話の流れではなく、ラストに分かれ道を設置する形はそのまま制作者達の一つの“愛”そのものであり、その表現方法として充分観客に伝わる方法であることを証明してみせた作品であろう。ファミリーの足の裏、シャロンの足の裏、両方とも汚れてはいるし、お互いは偏見のみで相手を理解しようとしない。そんな今の時代にも警報を鳴らすメッセージ性もさりげなく入れている部分も又ニクい演出である。ちなみに腋毛は個人的にはワイルドさをアピールしていて面白い演出だったけどねw