「モヤるもパワーある逸品」斬、 kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
モヤるもパワーある逸品
いやー、なかなかパンチのある映画でした。
ハンディカメラで画面が揺れたり、音がギラギラしていてなかなか観心地は良くないですが、それが迫力につながっているようにも感じました。
時代劇ですが、割と『怒りは怒りを来す』系の作品です。無意味な武力衝突によって、我々国民は尊厳などなく振り回され、大事なものを失っていくのだ、戦争反対!みたいなことを言いたいのかなぁ〜、なんて感じました。
あと、殺し合い始めると、明らかに何かがイカれてくる様子も描写されていて、なかなかコクがありました。
池松壮亮演じる主人公・都築は割と複雑なキャラクターというか、多重的な見方ができる存在ですね。
斬ることができず、悶々とマスをかき続ける都築は、大人になるためのイニシエーションを突破できない未成熟な若者という側面があります。だから蒼井優ともセクロスできません。
しかし、この『(親を・子ども時代の自分を)斬って大人になる』というのはあくまでもイメージの話で、本作はガチで斬る・斬らないの話なので複雑です。本当に斬ったら修羅道に堕ちるわけですし、でも斬らないと大人になれない。そして、本当に他人を斬って大人になるというのも、マチズモな価値観に染まっていくだけなので、なんとも悶々としますね。あれじゃあ、焦燥感に駆られてマスかくしかねぇな〜、なんて思いました。なんというか、都築という男と侍という身分の相性が悪すぎますねぇ。
なので、どの道を選んでも出口なしの都築さん。だから、江戸に出立する直前に病に倒れるのですよ。
前半はかなりテンションを煽ってくる作品ですが、後半は無力感や絶望感が迫ってきて、こちらも疲れてきました。
そんな中、長い黒髪を下ろした蒼井優がセクシーでした。和服に下ろした髪って、妙にエロく感じます。終盤の蒼井優は実に鬼気迫る雰囲気なのですが、一方で色っぽく感じました。これまで蒼井優に対して凄みは感じてましたが、セクシーは感じたことがなかったので新鮮な体験でした。
いろいろな角度から語れる作品だと思います。やや拡散している、と言えなくもないですが、作品に渦巻くパワーが勝っている印象です。
とはいえ、どこか無力で心が乾く作品だと思いました。
後味がモヤる作品だったせいか、鑑賞後に何故かブラフマン(しかも超克以後の作品)を聴きたくなり、ガンガン聴きながら帰りました。
なんか、まるで論拠はないのですが、直観的にブラフマンが本作へのアンサーなのではないか、と感じています。
幕が開くとは終わりが来ることだ
一度きりの意味をお前が問う番だ