「この作品が伝える「言葉」」ブレッドウィナー つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
この作品が伝える「言葉」
社会派作品なことは分かっていたけど、想像以上にディープでハードな内容でしたね。
序盤の父が連行される理由からして中々凄まじい。
女に本を読んだ。女に本を読んだ。女に本を読んだ。衝撃すぎて3回も書いてしまう。
とはいえ、この地における女性の扱いについてのような単純な話でもない。
そもそもは冒頭で父が話してくれる支配者の話にあるように、常に外敵からの侵攻にさらされ、荒らされまくった地を守るため、そこに生きる女性を守るため、ムスリムの教えに従うことを決めたのがタリバン。
行き過ぎた女性保護はいつしか融通のきかない本来の目的を見失った、もはや暴走とも言えるような過激さをおびていくが、彼らが言っている私なんかにとっては無茶苦茶に思えることはムスリムの教えにのっとっているのだ。
その地で暮らす人々が「教え」をよしとしているのならば、そよの文化的宗教的習慣に私たちがとやかく言うべきではない。
誰も手を出さずほおっておけばこんなことにならなかったのでは?という問いを残す。
構成は主人公パヴァーナの父を助け出す物語にパヴァーナが語る物語が内包されていて、感覚としてはギレルモ・デル・トロ監督の「パンズラビリンス」のようだ。
パヴァーナの物語も、物語の中の物語である少年の物語も終盤に向かうにつれて本当に怖くなっていくんだけど、その中で少年が追われている謎の怖いものの正体がちょっと面白いと思った。
単純に忍び寄る死なのか、終盤になりアメリカの飛行機が見えるが外からの攻撃なのか、内から出るタリバンによる支配なのか、パヴァーナが感じている漠然とした恐怖なのか、死者の呪いなのか、それとももっと違う何かなのか。
つまり、観ていると何らかの恐怖を覚えると思うが、それが人によって違っても、少年が追われている謎の怖いものが自分が考えている恐怖になれるということだ。
謎の怖いものの正体は謎の怖いものなんだ。
少年の物語の中に出て来る3つのもの、光るもの、捕らえるもの、なだめるもの、が、現実のパヴァーナの物語とリンクするかなと期待したのだが、それは曖昧で混ざらなかったように思えて残念だった。
ただ、3つ目の「なだめるもの」は少年の物語でもパヴァーナの物語でも同一とみていいと思う。
ネタバレになるので書けないがスリマンが語る僅か二行ほどの出来事に何も感じない人はいないはずだ。
観ていて感じる恐怖に少なからず干渉しているし、それは具体的だが曖昧でもあり、しかし未来に向けて何とかしなくちゃならないという気持ちを芽生えさせる。
これこそがこの作品が伝える「言葉」であり、幸せな話なのか悲しい話なのか決めるのは、この時を見るか未来を見るかで変わってくるように思う。
