「晩年に静かに人生を肯定する」エリック・クラプトン 12小節の人生 しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
晩年に静かに人生を肯定する
「ボヘミアン・ラプソディー」のような「事実をもとにしたフィクション」ではなく、これはドキュメンタリー・フィルム。従って、「ボヘミアン〜」のようなドラマチックなストーリーや作られた演出はない。それでも、エリック・クラプトンの起伏に富んだ音楽人生は、ヘタなドラマよりも面白い。
前半はブルースという、メインストリームではないジャンルから出発したクラプトンが、いかにメジャーとなったか、という音楽的な変遷が中心。ヤードバーズ、クリームでの活動。ビートルズ、ストーンズ、ボブ・ディラン、ジミヘン、B・Bキング、アレサ・フランクリンらとの交流や、その蔵出しフィルム(音質も良い)が楽しい。
中盤以降、よく知られたジョージ・ハリスンの妻パティとの恋愛エピソードあたりから、生身の彼自身に関する物語が中心となる。
パティとの関係を歌ったのが名曲「レイラ」。ここからの展開は、もう波乱万丈で、まったく飽きさせない。
パティとの失恋を機会に表舞台から姿を消してドラッグ依存に陥り、シーンに復帰するも今度はアルコール依存でステージでも奇行を繰り返す始末。
すっかり“壊れてしまった”クラプトンだが、思いがけず子供を授かり、立ち直る。ところが、今度はその子供が僅か4歳で不慮の死を遂げる。
再びドラッグやアルコールに手を伸ばしかけそうになった彼を、どん底から救い出したのは音楽。彼は哀しみを名曲「ティアーズ・イン・ヘヴン」に昇華させるのだった。
複雑な家庭環境に生まれ、親の愛を知ることなく育ったクラプトンだが、最後に彼は自身の家族を得て、人生を静かに肯定するシーンで本作は幕を閉じる。
そう、これは「ヒット曲に乗せて、人生山あり谷ありをドラマチックに見せる」、応援上映するような映画ではない。
しかしここには、地味な表現ではあるが、いまも生きている1人のミュージシャンのリアルな独白があり、味わい深い。