「見えない配慮をする自分を見つめなおす」カランコエの花 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
見えない配慮をする自分を見つめなおす
"カランコエを止めるな!"というハッシュタグも現れた(笑)、今年もうひとつのロングランヒット映画である。「カメラを止めるな!」と同時期(7月)公開で規模は小さいながらも、クチコミが広がり、静かなロングランを続けている。
ただ本作は短編映画(39分)である。コメディでもない。大幅な拡大上映となることはないかもしれない。
LGBT映画である。2017年・第26回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)のコンペティションでグランプリを受賞している。
ある日、高校のクラスで休講した授業の代わりに、「LGBTについて」 の授業が行われる。あまりに突然であったのと、ほかのクラスでは同様の授業が行われなかったことをきっかけに、"クラスにLGBTの当事者がいるのではないか"というウワサが広まっていく。
思春期の子供たちが、それぞれに行動をとる。騒いで茶化す男子もいれば、どうやって守るべきかにひとり悩む女子もいる。
高評価のポイントは、LGBT当事者の視点や立場ではなく、周囲の人の目線から描いていることである。主人公も一般の女子高生。身も蓋もない言い方になってしまうが、LGBTいじめが発生した学級のようすをそのまんまカメラは捉えた、道徳教育のビデオのようである。
しかし、いわゆるLGBT映画のように、当事者が悩んだり、苦しんだり、泣いたりすることで、差別を認識させるのではなく、周囲の人々のとまどい、不安といった空気感をとらえ、コミュニティとしてどうするべきかを考えさせる作品になっている。
タイトルの、"カランコエ"の花言葉は、"あなたを守る"、"おおらかな心"。主人公の月乃が髪を束ねているシュシュがカランコエの花に見えるということから、そのシュシュを頭につけてあえて登校するようになる。
本作を観たのは恥ずかしながら、そういったメッセージ性ではなく、今田美桜(いまだ みおう・21歳)が主演しているから。そして、この名作に出会った。今年、ドラマ「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」でメジャー人気になり、これからの出演映画は増えていくであろう女優である。
中川駿監督は、あえてLGBTについて意識的な準備をせずに本作に取り組んでいる。インタビューで、"偏見を持っているつもりはなくとも、距離を置いている"、"特別な配慮をすることがおかしい"と語る。
男の監督が、女優を主役にするときは何も構えないのに、LGBTを主役にする映画に特別な準備をするとしたら、それこそが差別であると。
そうはいっても、見えない配慮をする周囲のひとりかもしれない。
(2018/10/26/UPLINK渋谷/シネスコ)