劇場公開日 2021年3月26日

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「原作と全然違う!!!!」騙し絵の牙 といぼさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5原作と全然違う!!!!

2021年4月2日
PCから投稿

私は基本的に映画を観る前に原作の小説や漫画は敢えて観ないようにしているんです。「原作の方が面白かった」って映画を楽しめなくなることが多かったので自衛のためにそうしていたんですけど、本作は珍しく小説を買って読みました。小説も非常に面白かったのでオススメです。

結論、楽しかったです。出版業界大手の薫風社内で行われる派閥争い。原作だと速水の視点から描かれる物語を映画版では複数のキャラクターの目線から描き、数多の思惑が交差するストーリーに変えたのは面白かったと思います。
原作を読んだ上での感想なんですけど、本作の内容は映画オリジナルと言ってもいいくらいに、原作小説とは全く異なる作品でした。ストーリーも違うしキャラクターの関係性も違う。薫風社という出版会社の「トリニティ」という雑誌編集長が雑誌の存続のために頑張るという部分は一緒なんですが、その設定だけ持ってきてストーリーは全く違いますね。本作の主人公的な立ち位置にいる小説愛の溢れる高野恵というキャラクターは小説版だと権力のある人に近づいて取り入ろうとする強かなキャラクターですし、物語に大きく関わってくる速水の家庭環境などは映画では完全に排除されています。

原作改変に関しては、賛否両論あるかもしれませんが、私は賛成派です。小説をそのまま映画化するのはかなり難しいので、映画用に脚本を練り直す必要があるからです。本作の原作改変も私は概ね好意的に見ています。しかし「ここまで改変する必要があったのか?」っていうくらい原作の内容が残ってないので、全面的に賛同しているかと言われれば微妙です。

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出版不況の波にのまれる大手出版社の「薫風社」。会社を率いていたカリスマ社長が急逝し、社内では誰を次期社長にするかという派閥争いが勃発していた。コスト削減を謳う専務の東松(佐藤浩市)によって廃刊の危機に立たされていたカルチャー誌「トリニティ」の編集長である速水輝也(大泉洋)は、雑誌の存続のためにあの手この手で奔走するのであった。
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小説版と比べて登場人物が絞られていましたね。小説版ではトリニティ編集部員は全員名前が出てきてそれぞれに個性がありましたが、映画版では編集部員で名前が出てくるのは文芸畑から来た高野と文芸誌に憧れて速水に不信感を抱く柴崎くらいで、他の部員は登場するものの名前も出てこないしストーリーにもあまり関わってこない。

なにより大きな改変は速水の家庭環境について全く描かれていないこと。小説版の速水は完全に関係が冷め切った妻と中学受験を控えた大事な時期の娘を抱える複雑な家庭環境であり、何故速水が小説が好きになったかという幼少期の家族のエピソードなんかも出てきたりして、それらがストーリーにかなり関わってきます。しかし本作では全くと言っていいほど登場しません。それが原作読者からすると本当に驚いた部分ですね。

しかし、改変しているからつまらなくなっているとは全く思いません。むしろ、改変によって非常に分かりやすく見やすい作品に昇華されていたとも思います。二階堂や城島咲などに小説掲載してもらうために交渉をするシーンがありますが、あの軽妙な描写や演出は、やはり実写で大泉洋が演じないとできない芸当でしたね。原作だと結構重いシーンとかシリアスなシーンとかあるんですけどそういうシーンも大幅にカットや改変されていましたし、大泉洋のキャラクターによるものなのか全く重さを感じさせない内容になっていてかなり観やすかったです。

ただ先にも述べたように「ここまで改変する必要あったのか?」ってくらい原作からの改変がありますし作品の雰囲気も違いますので、もしかしたら原作を楽しんだ方からすると不満がある内容かもしれませんね。しかし私は「原作小説のシリアスな雰囲気も映画版のコミカルな雰囲気もどちらも楽しめて一石二鳥」だと感じましたので、個人的には結構楽しめました。

原作を読まずに観ても面白いと思いますし、原作を観た上で映画の原作改変を探しながら観るもの面白いと思います。オススメです!!

といぼ:レビューが長い人
Kumiko Takayamaさんのコメント
2021年10月17日

レビューを読ませていただきました。 素晴らしいレビューだと思いました。
私は、映画を見てから原作を読みましたが、多少の違いはよくある話で、自分の思い入れのある部分が変わっていたりすると、腹が立ったりすることもありますが、ここまで違うと‥‥もう、別物と考えた方がいいのかも!
塩田武士さんは、『罪の声』も、映画と原作両方とも見ましたが、どちらも素晴らしかったですね。

Kumiko Takayama
pipiさんのコメント
2021年4月2日

私は原作改変「許容派」なんですが、本作に関しては
しかし「ここまで改変する必要があったのか?」
というご見解にまったく同意見です。
設定に同じ箇所があれど、これではすでに「完全に違う話」であって「原作」と呼ぶ事すら違和感を感じますね。
危うく、塩田武志という作家さんへの評価を下げてしまうところでした。

pipi