「強者どもの騙し合い」騙し絵の牙 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
強者どもの騙し合い
原作は3年前に既読。塩田武士が、大泉洋と共同企画して、作品の主人公・速見輝也に大泉洋を「あてがき」して、実写化を目論み、4年越しの映画化となった作品。昨年公開された『罪の声』もそうでしたが、塩田作品は練りに練った構想で、やや複雑な展開にはなりますが、本当に面白い作品を提供してくれる。
今回は、出版業界を舞台に、騙し騙されの、ライヤー・ゲーム的な作品となっている。
今やデジタル化の波は、出版界を斜陽産業へと導いている。その中で生き残りをかける『トリニティー』の雑誌編集者の速見は、何とかその流れに牙を剝き、出版業界の体質に鋭いメスを入れ、奮闘していく物語。その片腕となるのが、高野恵に扮する松岡茉優。若さを武器に怖いもの無しに、大物作家や上司にもモノを言う。
そんな中、社内の派閥争い、上司からの軋轢、新進気鋭の作家の登用、反りの合わない社員への対応、異業種との提携など、様々な仕事上の苦難に、立ち向かう速見。しかし、それらも全て計算つくされた、早見の計画と知った時、あまりに意外な展開に唖然としながらも、このタイトルの意味が、見事に回収されていく。
また、それだけに留まらず、その後も早見さえ計画になかった、鮮やかな結末が用意されている。
「騙すことが、そんなに面白いですか?」のキャッチコピー通り、痛快な騙し合いの面白さは、塩田作品の緻密な構想の中にある。そこに吉田監督の演出が加わることで、観る人を、一層楽しませてくれている。原作を未読の方は、そのまま鑑賞し、映画に騙されてみることをお勧めします。
まあ、自分としては、毎年雑誌も含めれば100冊近くは、新しい本を購入しているので、かなり出版界に貢献しているつもりです。