「親父と重なって…… 。」さようなら、コダクローム 高坂圭さんの映画レビュー(感想・評価)
親父と重なって…… 。
Netfflixオリジナル作品。
コダクロームとは、コダックが
世界で最初に出したカラーフィルム
のこと。
疎遠だった父と息子が旅をするなかで
徐々に心を通わせあっていく、
ロードムービーだが、これがよかった。
父はガンで余命いくばくもない著名写真家、
初期の頃に取ったコダクロームの現像所が
廃止されるというので、付き添いの美人
看護師に頼まれ、現像のための
長いドライブ旅に出る。
首寸前の音楽プロデューサーの息子は
初めはかたくなに断っていたが、
人気バンドの契約が道中で出来ると知り、
いやいや同行する、という話だ。
地味な物語だが、父親のキャラが他人事
じゃない。
超自分勝手で、妻子をほったらかし
女とも寝放題、写真三昧で生きてきた。
貧乏絵描きのくせに借金を作り、
息子よりも先に家出をし、逃げ出した
僕の親父にそっくりなのだ。
当然息子は、父を許さない。
でも映画の父は、写真に関して
いいこと言うんだよねー。
フィルムのカメラで撮っている父に息子が
言う。
「デジタルで撮ればいいのに」
と父が答える。
「借り物のおっぱいを触ったことは?」
「何?」
「見た目がよくてもニセモノはニセモノだ。
最近は皆、写真をたくさん撮る。
何十億枚もだ。でも現像はしない。
データだけだ。
電子のチリだ。
後世の人が探しても写真は出てこない。
俺たちがどう生きたか、その記録はゼロだ」
なんとか間に合った現像所で
著名な父は、
写真家やファンたちに囲まれる。
そのときの彼のセリフがまたぐっとくる。
「俺たちは未知の時間ってものを怖がる。
時間がすべてを消していく。
だからこそ、我々の役割がある。
写真で時間を止め、瞬間を永遠にする」
やがて父を父親が撮った写真が現像される。
そこに写っていた彼の初期の作品たちとは
……。
アメリカの雄大な自然。
旅を続けていく中で起こるトラブルと
交流。そして恋。
男なら誰にもある父との葛藤が
切なく哀しく、ときにはユーモラスに
描かれている映画、心にしみる秀作です。
’