「怪物にエサをやっている」ザ・プレイス 運命の交差点 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
怪物にエサをやっている
完全ワンシチュエーションの会話劇。
明確な答えを期待するのは拍子抜けに繋がるけれど、たしかな手応えと面白さに溢れる作品だった。
ガンの息子を救いたい父親、ポスターの美女と付き合いたい整備士、夫に愛されたい妻、息子とやり直したい警察官、美人になりたい女、父親が疎ましい売人、痴呆の夫を回復させたい老女、視力が欲しい盲目の男、神を感じたい修道女。
実に様々で個人的な欲望を持つ人々の声を聴きとめ、なかなか実行し難い任務を与えるカフェの男。
常に眉をひそめた表情が印象的。
はぐらかし方と話の進め方が非常に上手で、小気味好くも張り詰めた会話のキャッチボールが楽しかった。
彼ならどんな口喧嘩も勝てそうだな。
話が進むうちにいつの間にか依頼者たちがそれぞれ意識しないまますれ違い交わっていく過程が非常にスリリングだった。
不自然なほど繋がっていくけれど、なぜかそこに対してあまり引っかからなかった。
なるべくしてなった事とナチュラルに思える。
悲劇的な結末を迎える人も、望み通りに叶う人も、形は異なれど方向を変えられる人も、もしかしたら最初から何もしていなくても結果は変わらなかったのかもしれない。
一度自分の願いと向き合い、理不尽でも大きな犠牲を払うことが重要だったのかも。
その代償に被害を被る無関係の人が生まれるのも昔から世の常だったのかも。
分厚い手帳に何を書いているのか、どんな法則で任務が決まるのか、いつからそこに居ていつ帰っているのか、そもそも誰なのか、人間なのか天使的なものなのか。
彼に対する疑問は次々と湧いてくる。
やたらと胸を強調した店員の女も。
いったいなんなんだ二人とも。何をしているんだ。理屈ではわからないのに何なんだこの謎の納得感は。
きっと彼とのやり取りを依頼人たちは口外しないし、なんならその内忘れていくのかもしれない。
あの場所は噂話で広がるものでもないと思うので、ただなんとなく必要とする時に必要とする人が知るようになるんじゃないか。
私の欲が実現するなら、彼の言うことを聞いてしまうだろうか。分からない。
欲望という怪物はエサを前にすると時に暴走してしまうか怖い。
明るめのドラマチックなBGMがミスマッチで面白かった。最後のカメラワークも好き。