「頭でっかちの小説みたい」ザ・プレイス 運命の交差点 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
頭でっかちの小説みたい
舞台は交差点にあるガラス張りのカフェ。窓際の同じ席に同じ男が座り続けている。食事をし、コーヒーを飲み、目の前に座る人物を相手に何やら契約を交わしている。混雑時も閑散時もそして閉店後も、男は同じように座っている。店はそれを容認しているようだ。男の正体は謎であるが、店の正体もまた謎である。
人々がどのようにして男の存在を知ったのか、契約条件は何なのか、男は店に金を払っているのかなど、観ているうちに疑問が次々に湧き上がってくる。しかしその疑問よりも、契約者の報告の方に物語の主眼が置かれていて、設定が理解できないままにストーリーが進んでいく。
それぞれの契約者の話はわかりやすい。契約者同士が絡み合うこともあるだろうとはすぐに想像がつく。実際にそういう風になる。しかし、だからどうした?という感想しか湧かない。契約者の望みが浅薄であり、成果も明白ではないこともあるが、契約者たちがそれぞれに本当にそれを望んでいるのかという点に疑問符がつくのが最大の原因である。
そのために教室での思考実験的な場面を見せられているかのような感覚を覚えてしまう。興味は男が神なのか、それとも別の何かなのかという点に絞られるが、それも判明しない。店そのものがどんな意味を持って存在したのかもはっきりせず、ウェイトレスの正体も不明である。
映画としてワクワクするかというと、それほどでもない。世界観に深みがあるかというと、そうでもない。男と契約者の会話はスリリングでそれなりに面白いが、それだけだ。作品に奥行きがないから、不明なところがあっても、もう一度見る気にはならない。学生が書いた頭でっかちの小説みたいな、そんな映画だった。