劇場公開日 2019年1月12日

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「事実はいつも虚しい。」未来を乗り換えた男 kazuyaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0事実はいつも虚しい。

kさん
2019年4月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

不思議な世界観の映画です。戦時中のドイツ、フランスが舞台とはなっているものの、その影響は視覚的には色濃くは描かれない。あくまで現代的なタッチで描写されているため、他の方がレビューでも書いていますが、確かにぼーっと見ていると設定を忘れてしまいそうです。オペラが時代錯誤を前提に新しい舞台装置で演出する感じと似ているような気がします。面白い試みなのかもしれないです。そこまで激しく違っているというわけではないですが。

僕はここで考えたいと思ったのは、アメリカに行く権利を持ちながら、それを皆、達成できないということが何を意味するのか、ということでした。
ゲオルグが領事館で出会ったアメリカ行きが決まっている話し好きな太った男。犬を連れた女。マリーの愛人の医者。マリー。船に乗ることも叶わずに死に、あるいは自ら死を選び、マリーと愛人を乗せた船は沈んでしまいました。ゲオルグはその中でただ一人生き残り、失ったマリーの幻想に目を輝かせるのです。

正直、僕は映画の中にこの答えになりそうなものを見つけることができませんでした。それよりも、エンディングテーマの「road to nowhere」という言葉の中に、この映画のテーマを感じます。というのは、4人の不幸な未完了が意味するのは、船出を待つ日々に隠されていた楽しみについて、ではないかということです。つまり、「どこでもない場所」へ行くその道すがらの期待感と喜び。その先にある現実と、そこにいつもある落胆、という作者なりの事実を描いたのではないでしょうか。

別れという事実を作り出し、突きつけたマリーは、孤独を知り、その孤独から逃れられない存在であり、マリーのアメリカ行きを決意させたものの正体が、未だに夫ヴァルテルである事実を知ったゲオルグは自らアメリカ行きを断念した上に、愛する者の死を知るという孤独を知ります。事実が孤独を連れてくる。それが作者の実感なのかなと、そんな風に捉えました。

ゲオルグ役の俳優、フランツ・ロゴフスキのなんとも悲哀のこもった口調がとてもいい。人懐っこい顔のようで、果たして本当に愛するという感情を持つのだろうか?と思ってしまうような、揺らぐような表情は、この映画の魅力の一つかもしれません。

k