「昔も今も、人が人を排斥する現実」未来を乗り換えた男 とえさんの映画レビュー(感想・評価)
昔も今も、人が人を排斥する現実
今、ヨーロッパで起きている難民排斥問題について、いろいろと考えさせられた作品だった
1942年の第二次世界大戦下のドイツで、迫害に遭った小説家アンナ・セーガースが亡命先のマルセイユで執筆した小説「トランジット」を、現代を舞台に置き換えて映画化した作品
その「トランジット」が書かれた1942年当時、迫害と言えば、ナチスドイツがユダヤ人を迫害していたことを思い浮かべる
そして、誰もが、ユダヤ人迫害なんて、二度としてはいけないことだと思うし、ナチスドイツは悪だと思うはずだ
しかし、その話を現代に置き換え、迫害されているのは誰かと考えると、それはヨーロッパに入ってくる難民であり、移民なのである
しかし、そのことに対して、誰もファシストだとは言わないし
(言っている人がいても、大きな声にはならない)
難民や移民が連行されても、当然だと思っている人もいる
この映画は、時代設定や、迫害されている対象を曖昧にし、
さらに、主人公を国を追われてフランスに逃げ込んだドイツ人にしている
そうすることで
現在のヨーロッパでは、いつ、どこで、誰が迫害され、住む場所を追われるかわからない状況にあることを表している
そして、その言葉通り、主人公ゲオルグが出会った人にたちは、次々と姿を消していくのだ
そこで思う
国家や、国境というのは何のためにあるのか
もしも、ドイツ人が、フランス人のIDを盗んでフランス人になりすますことができるなら、そもそも、そんなIDなんて必要ないのではないか
フランス人になりたい人がいて、密入国をした上で、自分と近い年頃のフランス人を殺して、その人なりすますことも可能ではないのか
それよりも、その国で暮らしている人たちが、そこで生活をしていられるのであれば、排斥する必要はないのではないか
生まれた国を追われたり、生活していくことが大変になってしまった人が
他の国で暮らすことに居心地の良さを感じているなら、そこで暮らせるのが一番良い
しかし、今のヨーロッパでは、それが許されず
何も罪を犯していないのに、連行され、中には命を落とす人もいるのだ
そんなヨーロッパの現実をヒシヒシと感じた作品だった
そして、これまで「どんな人も受け入れる」と言っていたアメリカまで、その門を閉じることになれば、移民や難民は、行くあてを失ってしまう…
とても抽象的な作品で、観る人によって受け取り方が変わる作品だと思うけど
「人が人を排斥する現実」について、考えずにはいられない作品だった
決して、他人ごとでなく「それが自分の身に起きたら…」という目線で観たい作品だった