「エロい青春映画かと思いきや」芳華 Youth おおつさんの映画レビュー(感想・評価)
エロい青春映画かと思いきや
文化大革命のころの話しということでチャンイーモウ監督の『サンザシの樹の下で』を思い出しました。あの映画もたしか主人公が演劇部隊にいたような。
最初は『サンザシ』のように男女の恋愛模様が描かれます。また、女子がTシャツ短パンで踊っているシーンが多々あり、若さ(あとエロさ)が溢れる青春映画だと気楽に観ていました。
しかし、中盤の中越戦争が始まるところから映画の雰囲気がそれまでの青春映画から戦争映画へと変わっていきます。また、それがただの戦争映画ではなく、兵隊が爆発して肉片が飛び散るなどハードな描写が多いものでした。(戦闘シーンの長回しは迫力がありました。)
この映画が面白いのは、中越戦争のシーンが終わると、また再び当初の青春映画ふうのテイストに戻っていくところです。ある種、中越戦争のシーンはこの映画の中で異質です。
戦争シーンはもう少しソフトであっても、また、シーン自体がなくても青春時代とその後の青春時代が過ぎたシーンがあれば成立したはずだと思います。そうすれば『サンザシ』のように甘い話しにもできたし、映画としても収まりがよかったのではないでしょうか。
しかし、そうしなかったところに、フォンシャオガン監督の特性がある気がします。フォン監督の前作『唐山大地震』も死者の名前が書かれた墓碑の前を長回しして自転車で通りすぎるシーンがありましたが、この監督は映画として収まりが悪かろうが、戦争や災害で亡くなった者に対する鎮魂の意味を映画に込めたいのだと思います。
真面目というが誠実というか、それこそ監督はこの映画の主人公劉峰のような人なのではないかと想像してしまいました。
中国映画で割りとよくある一代記ものは、ストーリーが散らばってしまう気がしてあまり好きではなく、そういう意味でこの映画も青春時代だけのほうが個人的にはよかったかなと思いましたが、十分面白かったです。