ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密のレビュー・感想・評価
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DISC理論
ウィリアム・モールトン・マーストン提唱による、人間の性格分類のケースワークの理論である。現在は趣が違っているのだが、4つの分類の頭文字をとって名付けられている。そして、本作でもこの4つのテーマにてパート分けをしてストーリーテリングが行なわれている。
日本人にとって、“ワンダーウーマン”はそれ程メジャーではない筈である。40数年前にテレビ放映されていたそうだが、“バイオニックジェミー”と混同されることも多い。まず、女性がヒロインではなくヒーローとして表立って活躍するプロットの斬新さは、当時の自分には上手く飲み込めなかった。経験一つ取っても、当時のウーマンリブ運動に無頓着だった恥ずかしい時代である。男勝りに敵をなぎ倒す姿にそれ程ヒロイニックファンタジーに嬉々とする素養を持ち併せていなかった。その後の、仮面ライダーストロンガーのタックルや戦隊シリーズピンク担当が周知の事実となり、女性も男と同等に闘うという図式は定着して行く。そしてその始祖が前述の“ワンダーウーマン”という訳である。とはいえ、日本のヒロイニックのか弱さとの同居とは違い、徹底して男性社会へのアンチテーゼとしての描かれ方が施されているプロットは、女性を母性的、又は従者的、もっと酷くなると慰みとしての対象からの開放を余すところ無く表現され、それが又、アンチであるマチズモ達にとっては“メスゴリラ”的揶揄を引き出しやすい図式になってしまう問題を、世界はずっと抱え続けている。マーストンはその解決策として、性別とは異なる種別分類を心理学的に紐解きながら、この男女差別の根源である家庭内における歪んだ教育を訂正する目的で、幼少期の男の子が接する機会の多い“コミック”に表現の場を求めた、というのが史実である。しかし、その史実は余りにも学者然とした透明感のある高尚さを印象づけるが、その裏にある既成概念に囚われない自由な発想と、急進的な実践においての世間との軋轢、不整合による問題悪化を招く結果や障壁を描き、決して綺麗事ではない、自由を勝ち取る頑固なまでの自己肯定への願望をスクリーンに映し出したのが本作である。
勿論、こういう伝記モノには過剰な演出が“盛って”あるので、このまま本作が真相という訳では無いであろう。あくまでもエンタメとしての素地も敷かれていないと面白味に欠く。
そもそもが“ワンダーウーマン“を絵として表現した人物ではなく、あくまでも漫画原作としてネームこそはやらないだろうが、原案やストーリー構想、そして一番拘る厳密な設定を役割として担っていた。なので、その設定の源泉の紐解きを描いているのも興味深い。残念なのはそのアイデアに行着く過程は当人の頭中なので、唐突な感が否めず、新たに疑問が湧いてくるのが致し返しなのだが。
とはいえ透明な飛行機(プレゼントされたガラス製ミニチュア)、真実の投げ縄(嘘発見器における心拍数等計るコード類)、ブレスレット(常に装着)、諜報員(第一次世界大戦時)、ヘアバンド、ボディースーツ等がかなりの熱量で用いられる展開は淀みがない。
話は変わり、今作品の最大のテーマは『ポリアモリー』である。男1人に対して女性2人となると当然ながら嫉妬心や独占欲が働くことは自明の理である。但し、所謂“バイセクシュアリティ”的な要素が含まれるとその垣根も薄くなる。きっかけは人間としての芯の強さと女性としての弱さの極端性を妻はもち、助手は妻の苦悩に共感を抱き、愛情へと昇華していく。この特異稀なる出会いと環境、そして気づきが、3人の関係性を別次元へとワープする。確かにその関係性は社会通念上は認められる筈もなく、ましてや子供まで産まれるとなると倫理観の崩壊も甚だしい。その辺りの本来のドロドロな修羅場的なものは、隣の家族に醜態を観られてしまったシーンに集約されてしまっている構成なので、実際の三人の間の心境の機微を映像で解き明かす事は難しいのだろう。そこが映像で解説できていれば、対する性癖や性愛のシーンとの関連性が浮き彫りになるのではないだろうか。このままだと、妻が単に女子学生の間で行なわれたパーティに、自分も知らなかった性癖を開花させたという三流官能小説に終わってしまう危険性を危惧してしまう。まぁ、制作陣がそれを意図しているのならば、それも一つの表現なのだが。
性癖はあくまでも付属であり、本質は己の本能の赴くままに人生を楽しむこと。逆に、人生を戒律的に過ごすことで、その枷自身が一種の快楽であるという人間がいてもおかしくない。問題は、多様性を共有することのみがその多様性を担保し、論議できるということである。多様性を認めない人が幾ら『自分の思想も多様性に含まれているのだから矛盾してるのでは?』とのたまう輩もいるが、そもそもが入口が違っている。
今作品は、そのキワを攻めた興味深い作品である。
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