「日本人の琴線に触れる『音楽仁侠映画』」アメリカン・ヴァルハラ Rimaさんの映画レビュー(感想・評価)
日本人の琴線に触れる『音楽仁侠映画』
ジム・ジャームッシュ監督の『ギミー・デンジャー』はストゥージズを”学ぶ”為の映画だったが、今作はイギーの”今の姿”を切り取ったドキュメンタリー映画であり、バンド再結成で大団円を迎えた『ギミー〜』の続編的映画でもあると思う。イギーのソロ時代〜とりわけデヴィッド・ボウイとのベルリン時代のコラボ〜がサクッと割愛されていた『ギミー〜』と違い、2人の絆にもスポットが当たっている。…と言ってもボウイ自身が出てる時間は多くはない。にもかかわらず映画全体を覆うボウイの幻影。それはもう一人の主人公のジョシュ・ホーミとイギーとのコラボレーション『ポスト・ポップ・ディプレッション』が、ベルリン時代にボウイと共作した『The Idiot』『Lust For Life』を意識して制作された事からも自然な事だと思える。都会から隔離された砂漠にあるスタジオでジョシュ達と切磋琢磨する前半のシーンにかつてのボウイとイギーの姿を重ねて見てしまう。長い間、憧れ続けていたヒーローと共演する喜び、怖さを吐露するジョシュ。彼のイギーに対する熱い思いが伝わって来て思わず感情移入してしまう。そのジョシュ始めメンバーのイギーに対するリスペクトの精神が胸を打つ今作は、日本人の琴線に触れる、いわば『音楽仁侠映画』。単なるアルバム制作&ツアー・ドキュメンタリーではないのだ。後半からクライマックスのロイヤル・アルバート・ホール・ライブの素晴しさはもう四の五の説明する余地もない。ただこの場に居る事ができた観客を心から羨ましいと思う。(映画ではライブは完走しないので、見た後は『ポスト・ポップ・ディプレッション・ライブ・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール』のDVD/Blu-rayがお勧め)そして最後には祭が終わった後の寂しさを「ポスト・ポップ・ディプレッション(ポップ後の憂鬱)」と溜め息交じりに呟くジョシュと自分が同化している錯覚に陥るのだ。