「ものすごく好きなのに、伝わりきらない」心と体と つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ものすごく好きなのに、伝わりきらない
心と体は人間が「生きる」ということの両輪だ。「心と体と」で出逢うマリカとエンドレは、その片側に複雑さを抱えているのが興味深い。
エンドレの場合はわかりやすい。登場人物たちからの言及もあるし、少し観ていれば「左腕が動かないんだな」とすぐにわかる。
また、年齢を重ねたことで自分の魅力についても自信がなく、人生の実りの時期を迎えて「愛は自分のもとを過ぎ去った」と感じているであろうことも想像に難くない。
一方のマリカは内面に複雑さを抱えているので、最初は彼女の事がよくわからない。単に几帳面なのか、思いやりに欠けるのか、人付き合いが苦手なのか、判然としないのだ。
徐々にマリカという人物を理解していくのは、エンドレも観客である私たちも一緒である。
そんな「普通」と一線を画した二人が親密になるきっかけが「同じ夢を見ている」という事実だ。
しかも、互いが雌雄の鹿として互いの夢に登場するという不思議さ。
簡単に言うと、「夢で逢っている」状態だ。
こんな状況で運命を感じないわけがない。
エンドレは夢の中での逢瀬をきっかけにマリカに恋愛感情を抱いているのがすぐにわかる。
で、マリカも同様にエンドレに夢中になっていくのだが、それが全然エンドレに伝わっていないのだ。もどかしすぎる!
レゴの人形でのリハーサルや、雑貨店での化粧水のやり取りなど、細やかで繊細なディテールがシンプルなストーリーと美しい映像にマッチしていて、全く観ていて飽きない。
精神的にはお互いを求めて止まない状況なのに、夢の中では野生の鹿としていつも行動を共にしているのに、精神が肉体を媒介にした目覚めの瞬間から二人はすれ違い続けてしまう。
肉体があることで、愛しあうという純粋な行為に社会性やコンプレックス等の不純物が混ざり、愛を伝える困難さが浮き彫りになる仕組みがとても面白い。
ピュアで王道のラブストーリーを堪能しつつも、いかに私たちの社会が「普通」を前提に成り立っているか痛感させられる。
体が「普通」で、心が「普通」な人間たちだけで構成されているかのようなシステムからはみ出した二人を、応援したくなる良質な恋愛映画だ。