天才作家の妻 40年目の真実のレビュー・感想・評価
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人生の本質に迫る名作
予告編で大体のことがわかる。女流作家が正当に評価されず、せいぜい一過性のイロモノとして扱われる時代に、文才のある妻が才のない夫の名前で小説を出版していたという話だ。
そのままの生活が続いていれば、夫婦間のひずみやわだかまりに目を瞑って平穏な毎日を送ることができた筈なのだが、ノーベル文学賞の受賞者になってしまったことから、夫婦間の関係性が一変する。
もともと相手に対する尊敬と自分のプライドの間で揺れ動くことはあったのだろうが、生活を守り世間体を保って家族を維持するという共通の価値観のために、ふたりは自尊心を押さえつけて生きてきた。謂わば共同体の秩序を保ってきたのだ。しかしノーベル賞という名声は、自尊心を押さえつけるにはあまりにも巨大であった。
一般に、ストレスはある程度以上の感情的な負荷がかかったときに生じる。喜怒哀楽のいずれの場合でもストレスは生じるのだ。ノーベル賞受賞という大きなストレスに押し潰されそうになる夫婦の様子がいじらしい。
夫婦はそれぞれに葛藤と戦うのだが、これまで目を瞑ってきた夫婦間のひずみやわだかまりが大きく肥大して、もはや耐えられなくなる。授賞式をやり過ごしても、その後の夫婦関係は修復しがたい。
性欲や恋愛感情と名声や世間体のバランスは常に危うい。穏やかに思える我々の日常は、実は薄氷の上に乗っているのだということを、改めて思い知らされた気がした。人生の本質に迫る名作である。
妻の映画だ
スゴい演技
"Lessons in Chemistry"(2022)
(2022.7.5.)
Bonnie Garmusによる上記の小説を2022年の春に読んだ。舞台は1961年のアメリカ合衆国。1968年以前、結婚し主婦、妻、母として生きるのが普通の時代に、女性が化学者として自立し認められる道はあまりにも狭かった。が、希有な才能を持った主人公Elisabeth Zottは、常に前を向き、セクハラ、嫌がらせ、自分の論文内容を盗用されるなどに遭遇しながらもまっすぐ、正直に客観的に生きる。将来のノーベル賞受賞者(!)と目され引っ張りだこで気難しい若き天才化学者Calvin Evansに出会い恋に落ちるも彼女は結婚しない。彼の名に依存せず自分の名で化学者でありたいから。未婚で同棲も当時は有り得ない。が、彼は理解し行動する。彼と彼女はソウルメイト。二人とも幼い頃から家庭に恵まれず悲惨な子ども時代を送り友人も居なかった・・・。
この小説の話を知り合いにしたら、この映画を思い出した、とその知り合いが言った。私も見たなあと思ったら見てた。でもレビュー書いてなかった。よほど胸くそ悪かったんだろう。
時代は変わるが世界の中でも信じられないほど旧態依然の日本。でも絶望しないで生きていきたい。若い人達、自分の子ども達の世代を応援し支援する。
現代悲喜劇の傑作
原題が素晴らしい
役者が素晴らしい。
大女優の迫力
冒頭、老夫婦のセックスから始まって、どーゆー映画なんだろ? と、戸惑いましたが。
作家である旦那の過食、浮気癖、虚言癖、他人や息子への尊大さ、自分勝手な理由での排泄的セックス。
虚栄心のバケモノで、嫉妬深く、コンプレックスの塊な人間の屑。
明らかに過度のストレスで「壊れた」人間だということを、様々なシーンで丹念に積み上げていき。
対して、奥さんは常に貞淑で、落ちつき、旦那をたて、家族の健康と幸せを祈る、「内助の功」を体現したすごい人だというシーンを、これまた丹念に積み上げていく。
しかも、旦那はノーベル文学賞を獲るが、実は旦那名義で発表された作品はすべて、この奥さんが書いたものだった。
その奥さんを演じるのがグレン・クローズ。
彼女の演技がすごい。
引き込まれる。
特に、40年間耐えて耐えて、その恨みつらみが爆発するシーンの、目がすごい。
彼女の演技を観るだけでも、行った甲斐はあった作品でした。
万人に薦められない作品ですが、私的には大傑作。
でも、夫婦で観に行くのは避けたほうがいいですな。
特に女性は。
旦那の欠点になる行動の理由が見えて、熟年離婚をしたくなること請け合いですw
流石!グレン・グローズ!
ノーベル文学賞を受賞した作家。しかし、彼の作品は、彼の妻が書いていた。
物語の舞台は。1992年と結構昔です。劇中、懐かしきコンコルドもCGで復活していたりしています。それにしても、フェイクニュースであふれている“いま”であれば、「あぁ、そう言う事も有り得るよね」と思いますが(まぁ、それでも、物凄いスキャンダルになりますが)、1992年にこんな事が起きていたら、想像を絶する大騒ぎになっていたに違いありません。
タイトルの通り、妻側に焦点があてられたものですが、その妻を演じたグレン・グローズが、(当然ですが)凄い。夫のノーベル文学賞受賞の報を聞いて、自分の心の葛藤と戦う表情、夫が称賛されるにしたがって強張っていく表情。素晴らしい演技です。第76回ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞するのも納得です。アカデミー賞は、まだ結果が出ていませんが、当然、主演女優賞にノミネートされています。
あっという間
妻の思いが爆発する時
これはすごく面白い映画だった!
作家・ジョー(ジョナサン・プライス)はノーベル文学賞を受賞
授賞式に出席するため、妻のジョーン(グレン・クローズ)と息子を連れてスウェーデンのストックホルムへ向かう
現地でジョーンはノーベル賞作家の妻として歓迎されるが、彼女には誰にも明かしたことのない秘密があり…
私は結婚していないので、推測になってしまうけれど
おそらく、どんな夫婦にも、40年も一緒に暮らしていれば、積もり積もった思いというのがあるはずだ
なにも積もらせることなく、定期的に吐き出してスッキリさせておけば問題はないのだろうけど
吐き出さずに溜め込んでいると、ある日突然、それまでの思いが爆発してしまう
この映画の主人公である作家の妻もそうだった
彼らは1950年代に結婚した夫婦である
その頃はアメリカでも女性たちの社会進出が難しく、内助の功が美徳だった時代だ
どんなに妻が夫のために尽くし、キャリアアップに貢献しても、評価されるのは夫の方
妻はそのことを「二人でがんばって築き上げたキャリアだから、それでいい」と思い、そんな夫の姿が誇らしかった時期もあったはずだ
しかしある時、妻は「私のこれまでの人生はなんだったんだろう。このままでいいんだろうか…」と考えてしまう
そこまでの話を読んで
もしかしたら「あ、それは私のことだ」と思う人もいるかもしれない
というのも、私は、そんな二人を自分の両親と重ね合わせて観ていたからだ
妻が夫にぶちまける文句は、私がいつも聞いている母の愚痴そのものだったし、母の言うことを全く理解できず、見当違いなことを言う夫の姿は父そのものだった
その呆れてしまう感性の違いは、万国共通なんだなと思った
そんな私の話にピンと来た人は、ぜひ、この映画を観て欲しい
きっと妻の姿に共感できるはずだ
この映画を観て、これまで溜めてきたものを全部吐き出して欲しい
先日のゴールデン・グローブ賞では、この映画で妻を演じたグレン・クローズと「アリー」のレディ・ガガが主演女優賞を受賞した
恐らく、アカデミー賞では、その二人の一騎打ちになると見られている
私は、その二人が演じた役には共通点があると思った
この映画の妻も、アリーも、才能ある女性たちであり
彼女たちは夫からの嫉妬に苦しめられ、足を引っ張られた女性たちなのだ
そんな二人を演じた彼女たちが主演女優賞を争うのは、決して偶然ではない
男性たちが才能ある女性に向かって「家庭に入って俺のことを支えて欲しい」なんて言う時代は終わり
今、女性たちが自分の才能だけで生きていける時代がやって来たのだ
世の殿方たちは、いつまでも、誰かが世話してくれると思ったら、大間違いなのだ
良い時代がやってきたと思う
熟年夫婦の葛藤
試写会にて鑑賞。
原題は「The Wife」なのに邦題なんでこんなに長くしちゃったの?そのままでも良かったのに。
ダメな旦那だけど、離れられない。端から見たらノーベル賞受賞して孫も産まれて幸せの絶頂のはずなのに満たされない。。。その心がくるくると変わる表情で表されていて絶妙でした。
そういえばグレンクローズがグラミー賞取ったそうですがこのままアカデミー賞も取って欲しいですね!
個人的には"I'm a king-maker."の台詞とその時の表情がすごくグッときました!!
あと、あのイケメン記者誰だっけ?とずっと気になってましたが、クリスチャンスレーターだった!あのグイグイ距離を縮める感じ、結構好きかも。
夫婦で鑑賞するには相当な覚悟が必要
1992年のある朝、老作家ジョゼフ・キャッスルマンの寝室の電話が鳴る。それはノーベル文学賞受賞の知らせだった。狂喜するジョゼフとその妻ジョーン。夫妻は息子マイケルも伴って授賞式が行われるストックホルムへ旅立つが、機中でナサニエルと名乗る記者に声をかけられる。何かを知っている様子のナサニエルはストックホルムで再びジョーンに話しかける。しばしの談笑の後ナサニエルは彼が調査の末に辿り着いたある推論について語り始めるが・・・。
ストックホルムで授賞式を待つ数日間とジョゼフとジョーンが出会った1958年からの10年間が交錯する物語。晴れの舞台というのに散髪もしないジョゼフ、彼の健康を気遣いそっと寄り添うジョーン。ナサニエルが投げかけた言葉に呼応するようにホテルの床を転がる胡桃、スイートルームに並べられたジョセフの著作、ジョーンがふと見つめる腕時計に刻まれた刻印が二人の本当の姿を過去から引きずり出す一部始終がとにかく圧巻。思わずティム・バートンの『ビッグ・アイズ』を連想してしまいますが、それと歴然とした差をつけるのがグレン・クローズの存在感。クライマックスで見せる胸の内をかき乱す複雑な想いを言葉ではなく表情で語る熱演に身震いしました。
若き日のジョーンを演じているのはグレン・クローズの娘アニー・スターク。女性蔑視があからさまな時代に翻弄される女性像を見事に体現しています。もちろんジョセフを演じるジョナサン・プライスも見事で、子供のような無邪気さの向こうに見え隠れする驕りや弱さを少しずつ露呈していく演技にイライラさせられますが、その苛立ちは映画を観終わると自分に襲いかかってきます。
今の時代においても普遍的な何かを深く考えさせられるずっしり重い作品、夫婦揃ってのご鑑賞には相当な覚悟が必要です。
種明かし映画とみるか、描写映画とみるか
機内にて。ワンアイデアで100分を走りきる構成は好き嫌いが分かれそう。予告編でなんとなく予想できる範囲を超えない点は少しマイナスか。
逆に言うと、種明かしには焦点を置かず、主演Glenn Closeの胆力とノーベル賞の舞台裏という非日常の設定を楽しめたら良い評価になりえる。
夫の、ノーベル文学賞を喜ぶ作家、という人物像に最初大きな違和感を覚えつつ、徐々に明かされる「真実」によって納得させられる。
内容自体は近年のアカデミー賞で流行りの、「マイノリティー・抑圧されてきた者たちへの着目」という物語のひとつのように感じた。
個人的にはラストに不満が残る。観客に明かされ、妻が正面から向き合うことを決めた「真実」に、夫がどのような向き合い方をするのかを、この作品はほぼ描かない。
辛抱強いと思われたくない
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