「The wife-夫と妻の物語」天才作家の妻 40年目の真実 森のエテコウさんの映画レビュー(感想・評価)
The wife-夫と妻の物語
自身の才能が故に、承認欲求と打算の無い慈愛心の間で心揺れる妻の葛藤が鮮やかに表現される。
夫の浮気は、妻と比べての劣等感からだったのかと納得しようとしていると、「ただの病気でしょ」と家人に一蹴された。男女を問わず、浮気症か、そうでないかの違いだけだという。
それでも、「天才作家の夫に孫の顔を見せてあげたかったな」と私は思う。
鑑賞しながら、「これは実話を元にしているのか?」と錯覚したが、実話ならエライ事だ。「実話のわけないでしょ」と、これまた家人に一蹴される。
実話でないとしても、世界最高峰の『権威』ある賞レースを舞台にしていることで、『権威』の危うさと脆さが浮き彫りにされている。
『評価する側と、評価される側』それは、『認める側と認められる側』でもあり、夫婦間の機微にも通じる。何十年も連れ添った夫と妻の関係も常に危うさと脆さを内包しているのだ。たった一つの嘘や隠し事あるいは思い馳せの足りない一言によって、それはあっさりと出現する。
「男と女の間には、長くて深い河がある」という歌詞があるが、男と女に限らず、人と人の間には、永遠に長くて深い河があり、その河を越えようとする努力が試され続けるのが人生なのかもしれない。
自分を人と比べることは意味がないと思いつつも、人からの承認を求めずにはいられない人間の本質のようなものを、じっくりとあぶり出すような映画だ。
映画の評価なんて自分が気に入るか気に入らないかでいいじゃないかと思いつつ、やはり気になる・・・さて、オスカー(主演女優賞)の行方はいかに?