「"また猫好き狙い・・・"かと思いきや。」猫は抱くもの Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
"また猫好き狙い・・・"かと思いきや。
沢尻エリカの主演は、「ヘルタースケルター」(2012)以来。「新宿スワン」(2015)と「不能犯」(2018)では、助演ながら気を吐いていたが、やっぱりヒロイン級の存在である。いい監督、いい作品と出遭ってほしい女優だ。
原作は大山純子の同名小説。大山はシナリオライターを志した経歴を持つ作家で、自身原作の「猫弁」シリーズ(天才弁護士を主人公にした推理小説)のTBSドラマ化では脚本も担当している。今回の脚本は実績のある高田亮に譲ったものの、映画化そのものは喜ばしいことだろう。
猫好きの作家性がいかんなく発揮された原作は、主人公が"猫"だったり、"ヒト"だったりする短編が連作となって、"猫とヒトの関係性"を描いている。映画化にあたって沢尻エリカに合わせた設定変更をしつつ、エピソードも絞り込んでいる。
沢尻が演じる"沙織"は、元アイドルで所属グループの解散後、スーパーでレジ係として働くアラサー女子。いまでも"歌手"としての夢を捨てきれずにいる。そしてW主演の吉沢亮が、沢尻演じる沙織がこっそり飼っている猫"良男"を演じている。"良男"は自分のことを人間だと思い込んでおり、"沙織"の恋人であると信じている。
同じエピソードが、"猫目線"と"ヒト目線"で展開されるのが面白いのだが、映像化にあたって、リアルシーンとともに、猫の擬人化と劇中劇を組み合わせている。まるでミュージカル"CATS"手法である。猫の着ぐるみや猫耳は装着していないが、猫が登場するシーンはすべて、小劇場に組まれた舞台セットの中で展開される。また小劇場を意識するかのごとく、多くの出演者が人間と猫の一人二役・三役を兼任している。猫の世界はファンタジーなので、この方法が功を奏している。
ストーリーは、沙織が出会う、絵描きのゴッホ(後藤 保のニックネーム)をきっかけにして展開していく。ゴッホが飼っている猫"キイロ"を映画初出演となるコムアイ(水曜日のカンパネラ)が演じており、劇中の楽曲提供や、歌唱も披露している。このあたりも何となく"CATS"…。
タイトルから、"また猫好き狙い・・・"かと思いきや、そんなことはない。
沢尻エリカの歌もしっかり聴けるし(意外と上手い)、吉沢亮のミュージカル的シーンもある。映像と音楽によって原作とは趣きを変えており、アラサー女子の再出発の話がよりファンタジックになって、監督の犬童一心の技が光る。
(2018/6/23/新宿ピカデリー/ビスタ)