劇場公開日 2020年1月3日

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「美人過ぎる大統領候補には無理があったか」ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0美人過ぎる大統領候補には無理があったか

2024年9月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

シャーリーズ・セロン。ちょっと無理な設定でも、ちゃんと自分のものにする魔法の女優。

自身の完璧なイメージを逆手にとってレプリカント(的な…)を演じた『プロメテウス』や、復讐を胸に秘めた謎の女『マッドマックス 怒りのデスロード』、冷戦時代のヨーロッパを暴れまわるフィジカルモンスターにしてエレガントさを忘れない『アトミック・ブロンド』。

ただのブロンド美人にとどまらない、役柄の幅の広さはただ事ではないレベルになっている。きっと優秀なチームが彼女をサポートしているに違いないと思うが、近年ではほとんど制作も兼ねているだけに、映画がヒットするかどうかも、彼女にとっては重要なファクトであろう。なにしろ、一つ映画がこけたら、次のオファーが来なくなる厳しい世界に生きているのだから。

それにしては、ずいぶん平凡な役を受けたものだと思っていたところ、国務長官にして、次期大統領候補(当然女性で初の)という難しい役どころ。ちょっとどころか、ずいぶん美人すぎるし、政策なんか、有って無きが如し。環境問題を軸に、100を超える国々から批准を取り付ける有能なネゴシエーターぶりを売り物にしているあたり、いかにもハリウッドの延長線上に存在する政治家像だ。いっそのことバリバリの差別主義者で、欠点だらけの人間が、主人公と出会って、成長していくストーリーだったらよっぽど面白くなったと思うのだが、それは高望みなのだろうか。

政治を扱った映画では『女神の見えざる手』が非常に見ごたえのある映画だっただけに、あのジェシカ・チャスティンの領域までは残念ながら届かなかった印象だ。

とにかく、現実離れ感の強い役柄をどれだけリアルに見せられるかがこの映画の成功を裏付けるだけに、魔法のアプローチを期待したが、今回の彼女は無難なところに落ち着いた。

かたや、男の夢を一身に背負ったセス・ローゲン。脚本にも加わっているだけに、もう少し役に工夫が欲しかった。絶世の美女とチームを組み、成果を上げていくライターにしては、主義主張が見えないし、葛藤しながらも彼女が成功していく姿を横目に、裏方に徹するペーソスをまるでジャック・レモンにだぶらせるような演技を期待していたのだが、自分を抑制できない大人子供ぶりは、共感できなかった。かと言って有能なライターを彷彿とさせる姿も見られなかったし、ギャグもない。ただの薄汚れた中年だ。

もちろん最大の危機が映画でも描かれ、何とか切り抜けていくのだが、どちらかというと、女優にぶら下がっている印象が強く、有能なライターが彼女の立身出世を支えていく関係性ではない。高嶺の花に恋心を抱き、彼女の成功と引き換えに自分の恋愛を犠牲にするようなストーリーを勝手に期待していた自分が甘かった。といって笑いの要素もさほどでもなく、クスリでハイになる演出は忖度だらけ。日本で言えば、ジャニーズ系のタレントが下ネタに切り込んでも痛々しく映る現象に近いものがある。

もう一つだけ、アンディ・サーキスが、今回も特殊メイクでメディア王に扮している。いったい彼の素顔って、どれほど浸透しているんだろうか。『ブラックパンサー』では、顔はほとんど素顔だったのに印象が薄い。気の毒な役者さんだ。

とにかく、ストーリーにもっと工夫が欲しかった。悪くない出来だが、もう一つパッとしない。

うそつきかもめ