「男女逆転版シンデレラストーリー」ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)
男女逆転版シンデレラストーリー
今年の映画初めとして、1月9日(木)に、大人のラブ・コメディ映画の本作をTOHOシネマズ二条まで独りで鑑賞に行き、初笑いしてきました。
率直な感想としましては、
大人のロマンティックコメディ映画でしたが、下ネタ全開で少々私でもドン引きしそうなくらいの内容でしたが、かなり笑えました。
また、アメリカでは民主党支持者受けする映画っぽい政治ネタが多い内容でもありました。
思いの外、カメオ出演というか堂々と友情出演していたボーイズⅡメンをはじめ映画音楽の選曲センスが実に良くて、CDやデジタル配信ともに、サントラ盤(OST)の発売がないのが本当に惜しいくらいでした。
因みに、この”LONG SHOT”とは、遠くにある的を射るのはなかなか難しい事から転じて、「見込みがない」だとか、或いは、政治的表現では、この候補者は「泡沫候補」だとかいう意味合いの使い方をする言い回しだそうです。
ハッピーエンドで、大人のロマコメ映画としてある程度年齢を重ねたカップルが観るにも最適な作品かも知れないですが、ただ品の無い、なかなか凄い下ネタが全開でしたので、お上品なカップルや親子鑑賞には不向きかも知れないのでご注意下さい。
映画の設定的には、ロブ・ライナー監督による、アメリカ大統領役のマイケル・ダグラスと環境問題ロビイスト役のアネット・ベニングのラブ・ストーリー映画『アメリカン・プレジデント』(1995年)の男女逆転版的な映画で、これまでありそうでなかった設定の映画です。
女性の方が男性よりも社会的地位が上という映画は、オードリー・ヘプバーン&グレゴリー・ペックの名作『ローマの休日』(1953年)など数作はありはしましたが、その多くは『マイ・フェア・レディ』(1964年)然り、その現代版的な作品の、リチャード・ギア&ジュリア・ロバーツの『プリティ・ウーマン』(1990年)など、男性優位のシンデレラ的なラブ・ストーリーの方が多くを占めていたように思います。
今回の作品は、そういった『アメリカン・プレジデント』と『プリティ・ウーマン』を併せて、男女の設定をひっくり返したかのような逆シンデレラ・ストーリーでした。
この『ロング・ショット』は、そういったシンデレラ物語を、現代風にアレンジするべく、男女の立場を入れ替えたところが実に今風でユニークでしたね。
尚、本作品が『プリティ・ウーマン』を意識的に倣っているというのは、劇中の主人公の男女がアルゼンチンのホールの別室でダンスするシーンで、同作品の挿入歌でもある「It Must Have Been Love」の曲を流してダンスしたりする辺りからも明らかでした。
また、現代的な女性像を意識してか、シャーロットが、ブルース・スプリングスティーンの「I'm on Fire」のような曲が好きだとフレッドと意気投合する辺りも、強い女性像を表すよう意図しているかのようでした。
そもそもが、『マッド・マックス/怒りのデスロード』(2015年)では丸刈りの女性戦士のフュリオサ役を演じたり、『アトミック・ブロンド』(2017年)でも、スタントマンなしで、イギリス秘密情報部MI6の敏腕女性エージェントのロレーン役で壮絶なアクションをこなすなど、シャーリーズ・セロン自身には強い女性像という印象自体は染みついてはおりますが、今作品では、それ以上に、容姿端麗で才色兼備な国務長官という要職に就く女性像を実にそつなく演じていて、素晴らしかったですね!!
今作品では、シャーロット・フィールドという女性側の役柄をアメリカの国務長官として設定したところがミソでしたね。
実際にマデレーン・オルブライトやスーザン・ライスという過去にアメリカには女性の国務長官がいましたので、その点でも違和感はなかったですからね。
一方で、男性側のフレッド・フラスキーは、幼い時分からご近所に住んでいた幼馴染みの年上の彼女(シャーロット)にベビーシッターしてもらっていた古くからの友人で、今ではリストラされる前に、自分から退職した失業中のジャーナリスト。いわゆる「物書き」。
そんな彼が、ボーイズⅡメンも登場する、環境保護問題に関するチャリティーパーティーで、彼女と再会を果たし、その後は、シャーロットが次期大統領選に出馬するにあたり、スピーチライターとして陰ながらサポートするという展開。
環境保護問題をはじめ主要課題に対し、ウィットの効いたスピーチ原稿作成のために、二人が徐々に距離感を狭めて、内容確認を通して感情の起伏も生じるといったドラマ展開がすごく自然で面白かったです。
さらに、国務長官という仕事柄からも、二人は世界各国を飛び回る事になるので、様々な国のロケーションも堪能出来るのも観客の楽しみの一つになるかも知れないですね。
国務長官という職務に疲れたシャーロットが息抜きでフレッドと共にお忍びで街へ繰り出す辺りは、あたかも『ローマの休日』かのようでもありました。
本作品は政治の世界を扱っていることもあり、大企業からの献金問題、あるいは多国間との裏外交、それにLGBTQなどのマイノリティの問題や、アフリカ系アメリカ人やユダヤ人などの人種差別問題などといった現在の米国政権への辛辣な批判とも受け取れる演出もキチンと盛り込まれていましたので、どちらかというとリベラルな民主党支持者受けする映画という感もありはしましたね。
但し、その辺りの扱いはさほど深刻なものでもなく、むしろ下ネタの方が強烈な印象でしたね(笑)。
その他、「ワガンダ、フォーエバー!」などの台詞など、MARVELコミックや人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』などの引用箇所もあったりと、面白く観る事が出来ました。
そもそも国務長官という重責にある人物が、この様な軽はずみな行動を採るなんて非現実的すぎるというご意見の御方もあるかも知れないですが、そこは、学生の頃から環境問題の解決のために将来、女性初の大統領になることを夢見てきたシャーロットが、フレッドを媒介として、かつての自分の意思を再確認し、自分自身の主義主張を取り戻すといった、謂わば、素敵なお伽噺ですので、そこは寛容な目でご覧下さればと思います。
さて、シャーロットとフレッドの恋は成就するのか。また、彼女は念願の女性初の大統領になれるのか。
その後の過程が、気になる御方々は、ぜひ映画館でご確認頂ければと思います。
凄くお下劣な下ネタ騒動がありながらも、それを乗り越えていく過程には、笑いと共に感動を呼ぶ結末になっていますのでご期待下さい。
シャーリーズ・セロン&セス・ローゲンといったコンビは、美女と野獣というか、美女と熊さんみたいな容姿から、いったいどんな映画になるのかと思っていましたが、本作品は二人がプロデューサーも務めているだけあって、なかなか相性もピッタリでした。
アレクサンダー・スカルスガルド扮するカナダ首相役は分かりましたが、あのアンディ・サーキスは一体どこに出ていたのと思わせるほどの特殊メイキャップぶりも面白かったです。
今作品で、シャーリーズ・セロンは、美しくてアクションをこなせるだけでなく、コメディエンヌとしても立派に演じる事が出来る、本当に、何でもこなせる凄い女優だと感心しきりでした。
私的な評価としましては、
少々ドン引きするほどのお下劣な下ネタも全開なロマコメ映画でしたが、政治の世界を扱い、要職に就く人間の心理の変化もよく描き、過去のロマコメ映画を下敷きにしながら、見事に今風の男女逆転型のシンデレラ・ストーリーを再構築していましたね。
脇を固める俳優陣も良くて、下ネタ全開なので、お上品なカップルには向かない映画かも知れないですが、ある程度の大人の観客には男女ともに充分楽しめる作品になっていましたので、お正月に幸先良く初笑い出来ましたので、五つ星評価的にも四つ星評価の★★★★(4.0点)の高評価も相応しい作品でした。