港町のレビュー・感想・評価
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経済成長の代償として、今の日本がどこかに置いてきてしまったきたもの
都市型経済が追いもとめる、効率化、合理化とは無縁の世界。
ゆえに都会とは時間の進みかたが全く違う。
モノクロの映像がシンクロして、時間が止まっているかのよう。
想田監督が港町の人びとを観察するだけではなく、観客もカメラを通じてそれぞれのフィルターを通して観察する。
押し付けがましい場面説明やナレーションはないので、何をどう感じるかは観る側の自由に委ねられている。
監督のカメラからみる被写体の姿は、とても自然な表情で印象的だ。
まるで彼らの普段の生活を横から眺めるかのよう。ワイちゃん、クミさん。ほんとうに魅了的な人たち。
牛窓のような港町はどこの地方でもあったのだろうが、間違いなく日本の共同体は崩壊しつつある。子どもたちは昔からの生業では食べていけないため、都会へ出ていく。
残されるのは高齢者ばかり。
地方はどんどん「砂漠」化していく。
そんな寂しさを感じざるを得ない。
つまらないかもと見出した自分は未熟
だいたい作風は想像できたし、その範疇であったのだが、内容への興味は想像を遥かに凌ぐものだった。というのも、白黒で静かに始まった質素な映像を自分勝手に侮ってしまったわけで、その最初の負のレッテルが見ているうちにどんどん剥がされていき、未熟な自分を恥じつつも、終いはただただこの作品への称賛しかなかった。
なんで侮ってしまったかというと、この素晴らしいロケーションをなんで白黒で、なんて思ってしまったのが最たる要因で、その意図を徐々に理解できるような仕組みになっており、それが理解というか肌で感じ取るようになったときにはもはやこのドキュメンタリーの虜となっていた。
観察ドキュメンタリーと銘打って数々の名作を生み出されているけれど、作り手と対象者の関係性が重要な作品がほとんどで、観察しているうちに、その関係性が見えてきてそれが作品への興味を高めていく。
この関係性を見ることで、その地というものを深く理解できたような錯覚に陥る。錯覚というよりは真実をついていると言った方が適切かもしれないけれど、あくまで一つの視点での偏った見方ということで、一応錯覚と─。
白黒映像からでも美しさは伝わってくることが場所だったけれど、それだけにとどまらないその地の魅力を十二分に堪能できる素晴らしい映画だった。
牛窓に癒される
ちょっと遅れて鑑賞。
実在する牛窓の町だが、モノクロームの映像のおかげで幻のような不思議な感覚もあり。ノスタルジックな気分になった印象を受けた。
ワイちゃん、クミちゃん、人々の暮らしはつましくも温かく、ちょっとしたやりとりに笑わされ、癒される。
と思っていたら… ラストのドラマチックな展開には度肝を抜かれた。
事実は小説より奇なり、と言われるがそれを体現するような本作。
町は人だ。
そこに住む人々同様、田舎の町が現在進行形で寂れていき年をとっていっていく様子を目の当たりにするのはとても切ない。
自身も田舎を離れて都会で生活している人間であり、やるせない気持ちになった。
それでも 人生は、町は、続いてゆく。あんたはどうする?と問いかけられたような気分だ。
☆☆☆★★★ 観察第1章 漁〜販売・消費 高齢の漁師は嘆く。昔と比...
☆☆☆★★★
観察第1章 漁〜販売・消費
高齢の漁師は嘆く。昔と比べて魚が獲れなくなった事を。
折角獲った魚を売っても、網の修理の方が高くつく事を。
カメラは漁の一部始終を撮る。必死にもがき苦しむ魚達。生と死とが隣り合わせの瞬間を実感する。
獲れた魚の競りが始まる。そのスピードと同時に垣間見られる人間模様が面白い。
次々と捌かれて行く魚達。鮮度が命だけに、その見事な手捌きにはつい見惚れてしまう。
あ?穴子が逃げた!
後期高齢者のおかあさんは、顧客の生活環境等を大体把握している。
もしも何らかの自体が起きた時は…。
高齢者の多い地域ならば。この様な個人個人の連絡網が、万が一の非常事態の際に頼らざるを得ないのかも知れない。
なるべくならばそうならない様に、自治体での取り組みを願う他は無い。
観察第2章 人の歴史〜親子&港町の現状
映画は後半、それまでに何度か登場していた、話好きなおばあさんに密着する。
このおばあさんを通じて、島の現状で有ったり。ちょっと噂好きなところが有るので、「そこまで言わんでも…」と言った場面を挟みながら、エンディングへと突き進む。
このおばあさんのキャラクターが、次第次第に明らかになるのが圧巻で。思わず魅入ってしまうくらいに面白い。
このおばあさんの言っている事が、どこまで本当なのか?は、観た人の判断にお任せするとして。この作品全体が面白くなったのは間違いない。
但し、その反面。ドキュメンタリーとしての終着点が、ぼやけてしまう結果になったのは痛し痒し…と言ったところだろうか。
本来ならば、もっと島の現状。例えば、人口流出・高齢者問題。更には後継者不足…等の問題を、もっとはっきりと炙り出さなければいけなかったと思うのだけれど。
…とは言え、ドキュメンタリーは生モノで有るのは明らか。
それこそ魚で言えば【刺身】の様なモノだ!
素材さえ良ければ、そこに余分な付け合わせ等は要らない。小洒落たレストランが気取って出す《…○◉▽を添えて》…等とゆう料理は、素材本来が1番の刺身からしたら全く無意味なのと同じ事。
「こっちに行った方が面白いかも?」と思った方向へ舵を切った事で、作品がより面白い方向へ向かったのは事実。
そこには過疎化が進み。昔と比べて少なくなったとは言え、しっかりとした人間の生活の営みが映し出されていた。
2018年5月1日 シアターイメージフォーラム/シアター1
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