「過去の出来事だが未来のことかもしれない」メイズ 大脱走 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
過去の出来事だが未来のことかもしれない
この作品で最初に面白いなと思ったことは、イギリスから分離しアイルランドに帰りたいカトリックのIRAと、イギリスに残りたいプロテスタントのユニオニストが同じ房に入れられていることだ。
外の世界で争ったいた者同士がどちらも逮捕され、同じ房に入れられるなんてことがあるのか?中でイザコザを起こすなという方が無理あるだろ。なんならいっそ、潰し合えばいいくらいに思っているのか?
カトリックとプロテスタントでかなりの悶着があるのではないかと考えたが、それはさほどなかったね。
というのも、ストーリーの中心は想像以上に主人公の生きる喜びについてだったからだ。
ユニオニストから裏切り者と言われ、脱獄の下準備のために看守に媚を売り仲間からも白い目で見られる孤立したような状態の始まりは良かったし、そこから次第に脱獄計画を練り上げていく課程は面白いけれど、看守とのやり取りなどを通じて変化するヒューマンドラマのパートが作品のテンポを遅らせ、一番期待していた脱獄パートのスリリングさや緻密さのようなものが薄まってしまったのは残念だった。
多くのことを盛り込んで作品を重厚なものに仕上げるやり方は好みだけど、バランスが悪かったり相乗効果が得られなかったりした場合は、話がとっちらかるだけの芯のない作品になってしまう。
北アイルランド紛争、脱獄計画、主人公と看守のドラマ、なんとかバランスはとれていたけれど、どれもパンチが弱くて気持ちが盛り上がる前に終わってしまった。
結局は、クライムサスペンスのようなスリル、興奮、脱獄計画の顛末を見たかったのに対し、想像以上のヒューマンドラマで、そのドラマも観たくなる方向には進まない、なんともスッキリしない感じが、期待したのはコレじゃない気持ちにさせる。
聖金曜日合意で一応は鎮まった北アイルランド紛争だが、IRAの火種は目立たずに残り続けた。
この度のイギリスのEU離脱で再び大きく燃え上がりそうな危うさに対し、愛国も大事だけど、もっと個人の幸せを考えようね、と釘を刺しているように思える。
と同時に、IRAの火は消えてないぞ、オレたちはここにいる、と言っているようにも思える。
さて一体どっち