劇場公開日 2018年3月3日

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「実直で新鮮な家族映画」ハッピーエンド エイブルさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5実直で新鮮な家族映画

2018年3月24日
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今までのハネケにひとつ文句、あるとしたら、いかにも、未知のひねくれた感情を味わせてやろう、という手の跡がみえる点か。が、今作にて、その操作性はナリを潜め、登場人物それぞれが自らの意志で言動するさま、その勝手さに、むしろ若干困惑しながら、記録していく、観察者の進み方をとっていた。ハネケにしては、老練してこそ、また新しいようだ。
家族を題材にした映画で、葛藤がすべて解決、ハッピーエンド、あるいはその逆、という作品は少ないようだか、本作もその王道を行くところ、セブンスコンチネントを撮ったハネケにして、地味で、淡々としている。が、一周回っての境地なのか、地味な進行を構成するシーン、ひとつひとつが発する波紋の、広がり、そして、波紋同士の交錯、それにより、またさらに生まれる波紋は、文章で言えば、行間といおうか、こちらの脳内で補完させる、そんな喚起力を持って、迫った。家族の事件が、ざわつく感情の湖面に、乱投下されていく。
すると、裕福なフランス人一家である登場人物と、ドブ臭い水すするわが身の実状と、かけ離れて、いやまさか、我がこととして切々と沁み入り、心に深き爪痕を残された。
みてよかった。

エイブル