「その昔ロンドンが抱いた夢」移動都市 モータル・エンジン つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
その昔ロンドンが抱いた夢
あまり良い噂を聞かない本作だが、最初の十数分はかなり面白かったので思わぬ掘り出し物かと期待してしまった自分は愚かだったね。
そこから約一時間くらい本当に退屈で、これが最後まで続くのかもしれないと恐ろしくなった。
なんとか緑の人と赤い人が出て来てからは観られる程度には回復していったけどね。
後半にさしかかり、この作品が帝国主義と大量破壊兵器を揶揄した、イギリス人原作者フィリップ・リーヴさんの自虐的なネタストーリーである事に気付いてからは違った意味で面白く観られた。
世界観の設定なので受け入れるしかないが、移動都市主義というのは自分達で何かを生産することはせずに他者のものを奪うだけの本当にどうしようもない思想で、ちょっと考えればジリ貧になっていくのは目に見えているアホらしさ。そのジリ貧さは作中でも描かれているが、新しい狩り場の開拓という打開案が支持されているあたり作品内や現実での市民の愚かさをリーヴさんが嘆いているようにも感じたね。
それで、映像は素晴らしくストーリーもツッコミどころは多いものの無難なもので批判するほどでもないのにイマイチ面白くないのは、キャラクターに魅力がないせいと思う。
緑の人と赤い人は見た目もアクションもキャラクター性も申し分ないが、むしろその二人に食われまくった主役級二人が魅力なく薄すぎた。
特にヘスターは、後から後から設定が盛られていって、主要キャラクターのほとんどがヘスターと何らかの関わりがあるってくらいなのに、彼女のことは何もわからないままのような印象の薄さは致命的だ。
冒頭の移動都市同士のチェイスが最高だっただけに、次から次へと都市バトルが展開される脳筋ムービーだったら良かったのにとさえ思う。
その場合、設定だけ借りた原作無視の作品になり、それはそれでまた叩かれそうではあるけどね。